1-2・遠州弁い行

いいとこ

「いいとこの家」だとお金持ちの家とか格式の高い家などという上流を表わす意味合いとなる。善い人が住んでいる家とか立地条件が良い家とかいうことではない。持たざる者が持つ者を指して発するひがみも混じった言葉。したがって金持ちが「自分はいいとこの家に住んでる」なんてことは言わないし言ったら自慢してやがると思われてはぶせにされる。

「いいとこまんじゅう」だと秘密・内緒・教えないとかいう意味合いで使われる。

これから想像されるのは、「いいとこ」ってのは手の届かない憧憬のような場所とかいうことになるのであろうか。そして殆ど諦めてる憧憬でいつかなろうぞ辿り着こうぞとかいう向上心はさらさらない勢いがある。

では共通語の「いいとこ」ってどういう意味なのか。

「いいとこどり」これだと「良い所」

「誤解もいいとこ」これだと「にも程がある」

まあ「良い所」がほぼ遠州弁と同じか。(勿論共通語的意味も使ってる)

例文

「○○は、がさつだねえ。まあちっと行儀っつうのを知らんとを。」

  (あいつはがさつだねえ。もう少し行儀とかちゃんとすべきだろ。)

「あれであいつんおっかさはいいとこの出らしいに。」

  (ああ見えてあいつの母親は良家の出身らしいよ。)

「ほんとにい?なんにも教えちゃいんだかいやあ。」

  (本当かよ。何も教えてはいないのかなあ。)

「だらあなあ。ほとんど野生児だもんな。」

  (でしょうねえ。ほとんど野性児みたいなものだからね。)

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いきれる

「息苦しい」というニュアンスであろうか。きちんと訳すとなると遠州弁の訳では「蒸し暑い」としているところが多い。漢字で書けば「熱れる」であろうか。

共通語でも「人いきれ」という言葉があるように「いきれ」(熱れ)そのものは辞書に載っている共通語であるが共通語的には古語化しつつある中で遠州ではまだ残存してるということか。ちなみに国語辞典では造語と書かれており古語辞典では「熅る」(むしむしする熱気)という言葉が載っておりこれが相当するものと思われる。

「息が切れる」と言う表現が「いききれる」→「いきれる」と変化して訛ったと考えれば分かりやすいか。勿論説明上の綾でこれが正しい理由ということではない。

どちらかというと古い遠州弁でも最近はあまり使われることは少なくなってきている気がする。今ではどちらかというと「むっとする」という言い方をする人が多い。男女共用の表現。

例文

「こん中ぬくとくていいやあ。冬なんか仕事するに楽だらあ。」

  (この中は温かくていいなあ。冬とか仕事するのに楽でしょう。)

「あれえ(ビニール)ハウスん中ぁ結構いきれるもんで仕事するにえらいだにい。」

  (何言ってるの。ハウスの中は結構蒸し暑いから仕事するのにしんどいんだよ。)

「冬でもけえ。」

  (冬でもそうなの?)

「だよを夏なんかはあ堪らんにい。」

  (そうだよ。夏なんかもう堪らないんだからね。)

「なによを冬でもいきれるなら夏ぁ酸素ボンベでもしょうだ?」

  (そんなに冬でも蒸し暑いんなら夏なんかじゃ酸素ボンベでも背負うのか?)

「いくらなんでもそんなこたあしんけどやあ。」

  (いくらなんでもそんなことはしないけど。)

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いんくなる

「いなくなる」。関西系の表現であろうが遠州でも普段使われるということで。

決して暗くなるみたいな意味の「陰くなる」とかいうものではないし「インクなる」とかいうものでもない。

「いないものだから」は「いんもんで」

「いなくなれ」という「いね」という表現はまったくしない訳ではないがほとんど使われない。こういう場合方言ではないが「消えろ・けえろ」とか「もこういけ・どっかいけ」・「いらん」とかが使われることが多い。

例文

「まあたどこぞにほっつき歩きいっただか知らんがいんくなったぁ。」

  (またどこかにほっつき歩きにいっちゃっていていなくなったよ。)

「しょっちゅういんくなるでねえ。注意しんとを。」

  (気をつけないとしょっちゅういなくなるからね。)

「どう注意せすでえ。」

  (どう言えばいいのさ。)

「無理かあ。」

  (打つ手なしかあ。)

「だらあ。ホントしょんない。」

  (そうだろ。もうどうしようもないよ。)

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いがむ

以前「えがむ」という記事でも書いた「歪む」(ゆがむ)の訛った表現のひとつであるのが「いがむ」。

その記事では「いがむ」と「えがむ」に大した違いはないと記したのだが、個人的な感覚として思いついたことでいえば

目で視認できる物が歪んでるような場合には「えがむ」

目に見えないものが歪んでるような場合には「いがむ」

を使うことが多いような気がするのは気のせいか。

「世間が歪んでる」という場合には「世間がいがんでる」

「竿が歪んでる」という場合には「竿んえがんでる」

といった風に。もちろん明確な使い分けをしている訳ではないのでこうだと決め付けることは出来ない個人的解釈である。

ただし、「いがむ」は方言ということではなさそうで古語辞典を引くと「いがむ」(意味は「ゆがむ」)が記載されており古語であるらしい。何故古来「ゆがむ」と「いがむ」の二種類が存在していたのかの説明はなされていない。

したがって「えがむ」は方言だが「いがむ」は古語ということになる。

例文

「あそこんさあのにいさ、弟と違って性格がいがんでるできいつけなよ。」

  ((あそこにいる○○のお兄さん。弟と違って性格歪んでるから気をつけなよ。)

「どうゆうとこがあ。」

  (どういうところが?)

「自分欲しけりゃ誰んのだろうが自分のものにしくさるだって。ゲームだろうがマンガだろうがそれん弟ん買ったのだろうが弟借りてきたもんだろうがとんじゃかないだって。」

  (自分が欲しいとなれば誰のものだろうと関係なく自分のものにしちゃうんだって。ゲームでもマンガでもそれが弟が買ってきたのだろうが弟が借りてきたもだろうがお構いなしだって。)

「そりゃ強欲なだけだらあ。」

「だでそおゆうのいがんでるっつうだあ。」

  (だからそういうところが歪んでるって言ってるの。)

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いれこ

共通語では箱や器の中にひとまわり小さい同様な物を順々に入れていくもの。まあマトリューシュカの実用品版みたいなものか。漢字で書くと「入れ子・入れ籠」と書くらしい。

しかしながら遠州弁というかうちらの集落辺りでは「いれこにする」と言えば「入れ替える」、「いれこになってる」だと「入れ違いになってる」などという使い方をすることが多い。つまり逆になってると。

これが同じ言葉でありながら意味使いが変化したものなのか全く別の言葉がたまたま同じ読みで紛らわしくなっているのかは分からない。勝手な推測だが入れたものが交差・交錯してるみたいな対象物が共にはっきりしてる場合に使われるので「入れ交」が変化とかでもしたんだろうか。根拠は全くないけど。

とにかく共通語に訳すと「正しいところに置かない置かれていない・あべこべ」みたいなニュアンスになる「いれこ」という言葉。

こういう言い方をするのがどの程度の範囲なのかは定かではないので「これが遠州弁だ」と胸を張れる訳ではないのだが、少なくとも共通語しか話さない地域に行ったら通用しない(誤解される)表現であることは間違いないだろう。

つまり「いれこになってる」だと共通語では「順次大きさ順に収まっている」ということだろうが遠州弁では「順序がでたらめになってる」という意味になる。

それじゃあ大きいものに順次似たようなものを収めてくという共通語の「いれこ」を遠州弁でどういうかというと・・・特に思いつかない。なんかあるのかな?

それと、よりややこしくすると、「いれこにしていれるだよ」とかだと「互い違いにして入れるんだ」という意味になり共通語での「大きさ順どおりに入れるんだ」とかいう意味と異なるのである。さあどうだややこしいだろう。

言い訳になり申すが、数多ある遠州弁説明紹介HP・ブログに於いてこの「いれこ」という言葉の使い方及び意味説明されてるところは無いのでもしかしたら誤った解釈又はほんの一部地域だけで使われてる表現かもしれないというのを記しときます。

ちなみに「てれこ」という表現は遠州では聞いたことがない。関西弁らしいのだが遠州には波及していないことは確かであろう。

例文1

「なんかあんたの服つんつるてんだなあやあ。」

  (なんかあなたの服サイズ小さくない?)

「そうけえ?そうゆわれりゃあちいとパンパンだかいやあ。」

  (ええ?そう?そう言われればなんとなくきついかな。)

「太っただ?」

  (太ったの?)

「失礼こいちゃかん。・・・ああっ!旦那んのといれこで着てたあ。」

  (冗談言わないでよ。・・・ああしまった。うちの亭主のを間違って着てた。)

「なによを。お揃い持ってるだ?」

  (え?なに?ペアルック持ってるの?)

「家用だよ。安かったもんでまとめ買いしただよ。家でならとんじゃかないらあ。」

  (家用よ。安かったからまとめ買いしたの。家の中なら構わないでしょ。)

「つうこたあなに?旦那よりあんたあの方が太いってか。そうはめえんかったけど。ふ~ん。」

  (ということは、旦那さんよりもあなたの方が太いってこと?そうは見えなかったんだけど。ふ~ん。)

「うっさい!」

  (うるさい。)

例文

「うまくはまらんなやあ。」

  (うまく収まらないなあ。)

「おめえ、それとそこんさあのいれこにしてみい。」

  (お前さあ。それとあそこのを入れ替えてみなよ。)

「おおはまったわあ。」

  (おお!ぴたりはまった。)

「だらあ?」

  (そうだろ?)

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いる

「入る」ということであるが使いどころが方言チックなので記載。

共通語の「ひびが入ってる」(ひびがはいってる)を遠州弁にすると

「いみりんいってる」と言う。

「茶碗に茶ぁ淹れて飲ますかと思ったらいみんいっててあれまあだや。」

  (お茶碗にお茶淹れて飲もうとしたらひびが入っててあららだよ。)

こうした「入る」を「いる」という言い方をするのは限られていて思いつく限りでは「念の入った」とかぐらいしか直ぐには浮かばない。「年期の入った商売」とかを「いった」というかは人それぞれなので一概に決め付けられない。

しかしこうした表現は方言という訳ではなさそうで、辞書で調べてみたら載ってた。

「はいる」の雅語的表現で、「ひびが入る」・「実が入る」・「身が入る」・「念の入った」・「堂に入る」・「気に入る」とかが「いる」の使い方として書かれてあった。

未だ使われてるものもあり使われていないものもあり。そういった古い日本語が遠州でまだ生きてたということか。

感覚的にいくと「いみんいる」の「いる」は「逝る」の字が入っても可笑しくない感じで「いみりがいっててもう使い物にならない」(いみりで逝る)というニュアンスにとれたりもするのは気のせいか。

ちなみに「ひび」のことを遠州弁では「いみり」・「いみ」と二通りの言い方があり状況に応じて使い分けている。

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いん・えん

出来ないと言う意味。(以前書いた記事と被るかもしれないが新たに)

「書きいん」(書けない)・「やりいん」(出来ない)・「着いん」(着れない)

「いん」と「えん」の違いは、そうたいした違いはないのだが、

「着いん」だと、好みとかの理由で着れない(着ない)。

「着えん」だと、着方着こなしサイズとかの理由で着れない。

「行きいん」だと行きたくないという感情的な理由で行けない(行かない)。

「行きえん」だと道を知らないなどの理由で行けない。

例として、「一人じゃ行きいんだら?」(一人だと行きにくいんだろ?)

「一人じゃ行きえんだら。」(一人じゃ行けないんだろ。)

例文

「重たいで一人じゃ持ちいんだらあ。わしも持っちゃろか?」

  (重たいから一人じゃ持てないんだろ?俺も持とうか?)

「馬鹿こいちゃかんこれくらい持てんでどうせるでえ。」

  (冗談言うなよ。これぐらい持てないでどうすんのさ。)

「でも道知らんだらあ?こんな重たいの迷いがつらずうっと持って行けるだか?行きえんらあ。」

  (でも道知らないんだろ?こんな重たいのを迷いながらずうっと持ちながら行けるのかい?無理だろうに。)

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いれかしてやらん・いれかさん

入れてあげない・入れさせないという意味になる。ニュアンスを厳密に訳すと入れてあげることはやらない。

「~かして」と言う表現は「~させて」という訳にするのがスムーズではあろう。

共通語でも「やらかした・しでかした」と言う表現もあるがニュアンスは異なる。イントネーションも違う別物であろうか。

ちなみに遠州弁での使い方は「あいつにやらかしたらえらい目に逢った。」(あいつにやらせたらえらい目に逢った。)

なので「やらかしてやっただにやらかしやがって。」(やらせてやったのにやらかしやがって。)という表現も存在する。

「いれかさん」は打ち消しの表現で遠州弁での「やらかした」を打ち消すと「やらかさん」となるのと同じであろう。

「しでかした」は「しでさせて」なんていう表現はないので遠州弁でも共通語と同じ意味でしか使わない。なので「しでかさん」という打ち消し表現もない。「しでかさん」だと古文的な「しでかさんと欲す」みたいなことになる。古い言葉が比較的残ってるのが遠州弁の特徴ではあるが、さすがにこんな表現を普段使うことはしてない。

例文

「まぜて。」

  (仲間に入れて。)

「おんめえすぐちゃっと帰るでいれかしてやらん。」

  (お前は直ぐそそくさと帰るから入れてあげない。)

「そんな冷たいこといわんだっていいじゃんかあ。」

  (そんな冷たいこと言わないでさあ。)

「おっかさこわい衆にゃ無理だって。」

  (愛妻家には無理だよ。)

注、「おっかさ怖い衆」を「愛妻家」と訳したのはご愛嬌。

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いぜる その2

触る・扱うと言う意味。以前の記事で「なぶる」との比較で書いたがそれとは異なる普通の使い方として記載。

「いじる」が訛ったものと推測される。「いじくりまわす」は「いぜくりまわす」となる。これを他の表現だと「こねくりまわす」とかがある。

冗談だが銀河英雄伝説に出てくる「イゼルローン要塞」これを遠州弁で解釈すると「割賦を取り扱う要塞」という意味になる。ご利用は計画的にとヤンウェンリーに言うべきか。

例文

「どこもいぜってやへんにい。」

   (何も触ったりとかしてないよ。)

「うそこいちゃかん。なくなっちゃいんけどここんさあとかいごいとるじゃん。」

  (嘘つくな。なくなってはいないけどここのところとか動いてるじゃないか。)

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いまじぶん

漢字で書くと、「今時分」。

辞書で引くと、今頃の意の老人語となってるものもある。まあ共通語であって遠州弁と云う事ではないのだが他の地域では古臭い言葉となってるらしいが、遠州では年代に関わらず普通に通用する言葉ということで。

例文

「今時分来てなにするつもりよー。」

  (今頃のこのこやってきてなにするつもり?)

「そんな言い方しんでもいいじゃん。ちっとばか遅れたくらいでひゃあひゃあゆっちゃかんて。」

  (そんな言い方しなくてもいいでしょ。少し遅れたくらいで五月蝿く言われちゃかなわないよ。)

「あんたねえ。なにゆってるよー。はあとうの昔に会議終わってるだにい。もう課長カンカンだでねえ。わし知らんでねえ。」

  (君ねえ何言ってるんだ。もうとっくに会議終わったんだよ。課長エライ剣幕で怒ってるからね。覚悟しときなよ。)

「わしだって知らすけえ。会議ん先にお得意さんとこ挨拶周りしとけっつったの課長だにい。」

  (俺だって知らないよ。会議より先にお得意さんのとこ挨拶周りしとけって言ったの課長なんだからね。)

「にしたって何件回りゃあこんだだ時間になるだ?」

  (それにしたって何件回ればこんな時間になるんだ?)

「そんなのいえすけえ。成績争ってる奴に言えるかあ。」

  (そんなの成績争ってる奴にいえる訳ないだろう。)

「ま、ええけどやあ。なんしょそういうこんだで。」

  (ま、私の知った事じゃないから別にいいんだけどね。とにかく状況はそういうこと。)

課長「てんめえ!おんしゃあ今までなにしてけつかったあ。」

  (お前!今まで何してたんだ。)

「課長んゆった通り挨拶周りしとっただよ。」

  (課長に言われた通り挨拶周りしてました。)

課長「やあ馬鹿っつら。会議の前にっつったら?会議の時間までに戻れる程度に回って来いっつっただにい。恥かかしゃあがって。日本語も知らんだかてんめえは。」

  (バカヤロウ!会議の前にって言っただろ。会議の時間までに戻ってこれる目安で回って来いって言ったのに恥かかせやがってこの野郎。日本語も知らんのかお前は。)

ここでのトラブル原因は「先」と「前」の聞き違いによるもの。先も前も読みが「さき」であったせい。

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