1-2・遠州弁か行

かたしなし

「片づけないで」・「片付けしないで」と言っている。

「やりなし」・「買いもしなし」といった「~しなし」という言い方の一例であるのだけれど、「片す」という言い方自体が古い言い方と化していて「かたしなし」だとなんか古文調のようにも映るかなと思えてもくる。男女共用の表現。

「ない」を「ん」によく変える遠州弁であるが(例「やらない」を「やらん」とか)「片す」の場合には「かたしんで」とかに変わる言い方はない。ただし「片付けないで」の場合には「かづけんで」と変わることはある。まあ「かたしないで」という言い方は無いのだが「かたさないで」を「かたさんで」という言い方があるので説得力のない説明ではあるが。

変形としては「かたしいん」・「かたしえん」(片付けられない)、「かたしおせん」(片付けきれない)などなどがある。

例文

「あれなによを。あいつかたしなし行っちゃっただ?」

  (あれ?あいつ片づけなしに行っちゃったのか。)

「なんか急に思い出いたみたいでちゃっととんでったにい。」

  (なんか急に思い出したみたいで慌てて出てったよ。)

「おっかさに頼まれた用でも思い出いただらあ。しっかしすんごい散らかりようだなあやあ。」

  (鬼嫁に頼まれた用事でも思い出したんだろう。それにしても凄い散らかり具合だなあ。)

「ま、いつものこんだで特に気にならんくなってきてるけどね。」

  (まあいつのもことだから気にならなくなってきてるけどね。)

「馴れはこわいのっ。わしまだ無理だわあ。こいつのやりなし・しなし・かたしなしの三拍子にはついてけんわあ。」

  (なれってのは怖いね。俺はまだそこまでいってないよ。こいつのやらないしない片付けないの三拍子にはついていけないよ。)

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かやすとかあす

「かやす」も「かあす」も「返す」ということなのだが。

使いどころが異なるのは遠州弁だけか?んなわきゃないか。

「かやす」は、返納するといった物を戻すといった場合に使われる。(かやすは以前別記事で詳しく書いてあるが)

「かあす」は、裏返すといった物の面の表を変えるような場合に使われる。

「ひっくりかえる」だと「ひっくりかある」・「裏返す」だと「うらっかあす」

「裏側」を「うらっかあ」と言うので紛らわしいのであるが「裏側に裏返す」だと「うらっかあんうらっかあす」となる。

もちろん厳密な使い分けがある訳ではなく。「ひっくり返す」という場合上の屁理屈でいけば「ひっくりかあす」であるのだが現実には「ひっくりかやす」という人も大勢いるのであくまで大雑把な違いで実用的には大差ないということである。

「かあす」は「かある・かあった」とかになるが「かやす」は「かやる・かやった」とかいう風に変わらない。

逆に「かやす」は「かやせ・かやさん」とかになるが「かあす」は「かあせ・かあさん」とかいう風にはならない。

漢字にしたら「返す」で同じだけど単に訛り方の違いとかじゃなく全く別種の言葉なのかもしれない。

共に男女共用の言葉。

例文

「こないだ のぶさあに借りた○○かやいただ?」

  (この間のぶさんに借りた○○返した?)

「や、忘れかあってたわあ。そうゆやあ借りっ放しにしてたやあ。」

  (あっ!忘れかえってた。そういえば借りっ放しだった。)

「ちゃっとかやいた方いいにい。」

  (直ぐ返したほうがいいよ。)

「やいやいなんか垂れてるやあ。変なのこぼいただかいやあ。」

  (おいおいなんかこびりついてるよ。なんかこぼしたのかなあ。)

「拭くかなんかできんの?」

  (拭くとかして落とせないの?)

「うらっかあにしてかやしゃあばれんで済むかいやあ。」

  (裏返しにして返せばばれなくて済むかなあ。)

「そりゃまずいらあ。」

  (それはまずいでしょ。)

「かあしてかやしゃ時間稼げるかもしれんし。」

  (裏返しで返せば時間稼げるかもしれないだろうし。)

「稼いでどうするよを。」

  (稼いでどうすんのさ。)

「うまくいきゃあすっとぼけれる。」

  (うまくいけばすっ呆けられる。)

「馬鹿こいてんで駄目もとで拭きない。」

  (下らないこと言ってないで駄目もとで拭いてみなよ。)

「駄目だったら?」

「弁償するだあれ。」

  (弁償するに決まってるでしょ。)

「わからんよを。いいっつってくれるかもしれんじゃん。」

  (それはどうかな。許してくれるかもしれないだろ。)

「ならかやしいいきない。ちゃっとを。」

  (だったら今すぐ返しにいきなよ。)

「そりゃちょっと。」

「はっきししない。どうせるだ?」

  (はっきりしなよ。どうするの?)

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かい・かいい

「痒い」(かゆい)と言っている。遠州独特ではなかろうが一応記載。

「かい」は男女共用だが「かいい」は基本幼児・男言葉であり女性は「かゆい」と言うのが普通。

例文

「馬鹿かいいやあ。」

  (すげえ痒いよを。)

「外でバーベキューすりゃこうなるだで ちっとばか かいくても 我慢するだあれ。かいっつってやたらくしゃかいちゃ駄目だに腫れるでえ。」

  (外でバーベキューすればこうなることなんだから少しくらい痒くても我慢するもんだ。痒いからってやたらと掻いちゃだめだよ腫れるから。)

「ムヒかなんかないだけ。かいくてホント堪らんて。」

  (ムヒかなんかないの?痒くて堪らないんだけど。)

「ひゃあひゃあうっさいなあ。ムヒなら痛快無比のわしの蹴りいれたらかあ。痛くてかいいどころじゃなくなるにい。」

  (ごちゃごちゃ五月蝿いなあ。ムヒなら痛快無比な俺の蹴りを入れてやろうか。痛くて痒いどころじゃなくなるから。)

「そんなムヒいらんわあ。」

  (そんなムヒなんか遠慮しとくわ。)

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がんこ

「とんでもない人」・「ついていけない人」という意味で使われることがある。

似たような表現で「ひょんきん」という表現もあるがこの違いは「ひょんきん」が意外性や想定外を感じ「がんこ」は度を越えたという勢いになる。

どちらも常識を外れてるということでは大差ないのだが、「ひょんきんな人」・「がんこな人」と「~な人」とつけると他人行儀な感じになるところは同じである。

共通語の「頑固」とは明らかに意味合いが異なるのでこれは方言かなと。

例文

「あいつがんこだにい。」

  (あいつはとんでもない奴だよ。)

「なにがあ。」

  (どうした?何があった?)

「こないださあ。一回こっきりつかみ取りっつうの一緒にやり行っただけどやあ。根がごうつくだか知らんが気い済むまで何度もやり直すもんだで後ろだあだあに並んじゃって店の人にど渋い顔されて往生こいただよを。一緒にいていづようなかったわあ。」

  (この間ね。チャンスは一度きりというつかみ取りのイベントに一緒に行ったんだけどさあ。性根が強欲らしくて自分が納得いくまで何回も握り直ししてたものだから後ろの列が物凄く並んじゃって。店の人に苦虫噛み潰したような顔されて身の置き場がなかったよ。)

「周り見れんだけだらあ。後ろの迷惑なんざとんじゃかねえだらなあ。」

  (そこしか眼中にないんだろうな。後ろの迷惑なんて考えてもいないんだろうな。)

「に、したってやあ。はあええらあっつう風にさりげなくゆっただに聞く耳もたんだもん。勘弁してくれだよ。」

  (それにしてもそれくらいでもういいだろって感じでさりげなく注意したのに聞く耳持たなくてさ。本当に参ったよ。)

「でどうしたよを。」

  (それでどうしたの?)

「はあついてけんでうっちゃってきた。」

  (もう付き合ってられないんで見捨てて先に帰った。)

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かしがってる

傾いている。斜めになっている。

自分はあまりというかまあ使うことはないが、そういう表現の使い手が居て意味が理解できたのでこういう言葉があるのだろう。ただし殆どこういう使い方をする人は私の周りにはいない。

したがって遠州弁かどうかも定かではないが言った人間は遠州人なのでそうなのかなと思い記載。大分疑わしいが。

傾げる(かしげる)という言葉が近いのでこれが変化したものであろうか。

辞書では「かしぐ」(傾ぐ)かたむくの口語的表現となっているので「かしがう」という表現もあっても不思議じゃあない。でも普通は「かしいでる」(傾いでる)だよなあ。

例文

「お~い。そこんさあの柱ぁ。右んかしがってるらあ。直いといて。」

  (お~いそこの柱が右に傾いてるだろ。だから直しといて。)

「はいね。こっからじゃ程度分からんで見といてよ。」

  (了解。ここからじゃ傾いてる程度が分からないからチェックしてて。)

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甲斐性ない

遠州弁だと多少共通語と意味が異なるかもと思って記載。

実力・能力がない。金銭的にと言う意味の含みもあり。

共通語だと辞書(昭和47年発行製)とかによると「甲斐性」は、意気地・積極的にしようとする気力と記載されている。なんか近いようで微妙にニュアンスが遠州弁は変化してる風にも思える。

しかしネットでの最新の辞書で調べると、頼りになる資質とか記載されていて、これなら近いニュアンスである。

因みに甲斐と甲斐性の違いは

「育てる甲斐がない」は育てる張り合いがない。

「育てる甲斐性がない」だと育ててく力量(稼ぎ)が備わっていない。

とか言う風に使われる違いであろうか。性質といった性が付く付かないの違いといっただけではない別のお話しのようである。

遠州弁での「甲斐性ない」の使い方は他には、生活力(又は経済力)がないという直球的意味で使われることが多くある。

例文

「今度これ買うだよ。」

「あんたにそんな甲斐性あるだけえ。」

「ローン組みゃあなんとかなるらあ。」

「そうゆう問題じゃありもしんに。維持でけるだかっつってんの。税金やらなんやらで後々も金んいるだでねえ。甲斐性ないくせにどうせるよお。」

「そんときゃそんときだあれ。なんとかなるらあ。

「はああんたに物ゆう甲斐ないわ。好きにすりゃいいじゃん、わしもう知らんで。」

「そんなこといわすとお。きつくなったら助けてよ。」

「やなこったい。知らんわあ。」

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かっちん

集落によって言い方は様々だけれど、うちんとこは「ビー玉」を「かっちん」(又はかっちん玉)と呼んでいた。といっても男子での話しで女子がそう言ってたかは定かでは無い。眺めて遊ぶのではなく玉同士ぶつけて遊ぶのが主流で玉同士が当たる音が「カッチン」と聞こえることからその名になったと想像される。ビー玉は眺めてるだけでも愛でれるのだがそういうのはビーズ・おはじきと同様に男らしくないと囃し立てられるのでぺったんと共に収穫を競う道具として使われた。

ビー玉遊び自体がもう行なわれていないのでもう死語であるけれど。

どうやって遊んでいたかと言うのも記憶が定かではなくなっているが、ルールは忘れたが地べたにあるかっちんにかっちんを目の位置まで持ってきて照準合わせしながら上から落としてぶつけるとかいう遊びをしてた記憶がかすかに残っている。

他には学校の机を卓球台のように使って打つのはラケットではなく机のヘリからかっちんを手のひらで弾いてラリーとかしながら机から自分の陣地内で落ちた方が負けとかいうのもやってたなあ。指で弾いてビリヤードまがいなこともしたっけ。ボーリングもどきは消しゴムとか並べるのが面倒なのですぐ廃れたような。

あとは丸(輪)の中にあるかっちんを遠くから自分にかっちんを転がして当てて丸の外に出すみたいなカーリングもどきのようなのもあったっけ。

どこぞのアホが鼻に突っ込んで遊んでいて取れなくなって医者に行ったという逸話も聞いたこともあった。鼻に入れるくらいだからケツの穴にも入れたに違いないと噂し合った記憶もある。

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かえらした

意味は二通り。

「帰らせた。」

遠州弁の特徴である「せ」が「し」に変わる表現。

「帰られた。」

名古屋言葉っぽい丁寧な表現。遠州弁だと「かえんさった」。

両方使うのでややこしい状態が交叉する遠州地域ではある。

例文

「あいつぁどこいっただ?」

  (あいつどこ行ったんだ?)

「邪魔んなるだけだで帰らした。」

  (邪魔になるだけだから帰らせた。)

例文2

「お客さんどこ行かれた?」

  (お客さまどこに行かれた?)

「用がおありみたいで帰らした。」

  (ご用がおありのようでお帰りになられた。)

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いれかして

いれさせてと言う意味。

「かして」で項目作ると「やらかしてくれたなあ」というのや「貸して」とかが混ざってややこしくなるので。

~させてと言う表現だから多少丁寧にいってることになる。「いれさせろ」という表現だと「いれさしょう」とかになる。

入れる以外では混ぜるの「まぜかして」とか行くの「いかして」やるの「やらかして」とかまあ色々あるので入れるにしか使わない表現ではない。

例文

「がんこ楽しみにしてきただで頼むでいれかして。」

  (物凄くこれを楽しみにしてきたんだから頼むから入れさせてくれ。)

「ふんだだこんこいたって定員一杯だで無理だって。」

  (そんあことおっしゃられましてもお客さま定員ですのでご入場は無理です。)

「わざわざ来てやっただに追い返すだか?」

  (わざわざ来たのに追い返すのか?)

「またくりゃいいじゃん。」

  (又のお越しをお待ち申し上げます。)

「ここまで来るにいくらしたと思ってるだ。また来いっつうなら交通費弁償しろやあ。」

  (ここにくるまでに幾ら掛かったと思ってるんだ。又来いってのなら無駄足踏んだ分の交通費払ってくれ。)

「いくら客だってやあ、あんたの都合なんか知らんわあ。」

  (それはこちらでは対応いたしかねます。)

「お前その言い方はなんだあ。責任者呼んでこい。」

  (お前の対応が気に入らん。責任者呼んで来い。)

かように問題をすり替えてくる奴がなんと多いことか。執拗さに面倒くさくなって言うこと聞けば言わなきゃ損で今後もつけあがるだろうし趣旨を変えて論点がずれてくるような輩をまともに相手するのはどうかと思う今日この頃です。下手にでてりゃあいい気になりやがってってのはおっかない系のお人の専門用語ではない筈かと。

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かやす その2

以前書いた記事で「かやす」を返すと訳したが、その補足。というか思いつきの根拠のない想像。(妄想ともいえなくもない。)

「かやす」は単純に「かえす」が訛った訳ではなく、遠州弁では両方を使い分けしている。

「かやす」は借りたものを返す場合に使われることが多く、「聞き返す・言い返す」を「聞きかやす・言いかやす」とは言わない。

「金返す・傘返す」は「金かやす・傘かやす」とは使う。

辞書を引くと現代国語辞典には載っていないが、古語辞典には「かやす・かへすのなまり。」とある。

(上記は事実、下記は想像)

つまり大昔から存在していた言葉であるらしいが、言い過ぎかもしれないが遠州弁での使い方は借えす(こんな字は無いが)と書いても罰が当たらない使い方に偏っている。

ただし絶対的にそうだとは言い切れず「裏だで表にかやすに」(裏だから表に戻すよ)という使い方も存在するので仮説に過ぎないのではあるが。

そういう点では「戻す」・「元の状態にする」みたいな意味を持っているのかもしれない。じゃ「むしかえす」を「むしかやす」と言うかと言うとそうでもない。

なにをいってるのか分からなくなってきた。やはりこの案は妄想なのだろうか。

例文

「これ、かやいてきて。」

  (これ、返してきて。)

「どこにい。」

  (どこへ?)

「あんた持ってきただら?どっから持ってきたよぉあんた。そこんさあにかやすだあれ。」

  (あなたが持ってきたんでしょう。どっから持って来たか憶えてるでしょ?持ってきた所に戻してきてよ。)

「なんで?」

「なんでって当然だらあ。」

  (なんでって当然でしょうに。)

「だってかっさらって来ただもんでかやしゃとんまさるわ。」

  (だって勝手に拝借して来た物だから返せば捕まっちゃうよ。)

「やっ!馬鹿っつらあ。」

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