1-2・遠州弁あ行

ありがとね

以前遠州弁に感謝の言葉がないと書いたが、それはそういう類の言葉が使われていないということではなく遠州弁と呼べる表現が思いつかないということなのである。

つまり普通に生活するにおいて共通語の「ありがとう」・「どうも」等を使っていて独特な言葉はないということ。

でもまあ強いて挙げればということで思いついたのがこの

「ありがとね」・「どうもね」

語尾に「ね」が付くという言い回し。「ありがとう」や「ありがとうございました」を使うには改まった感じがしてどうもという時に使われる表現。年齢性別関わりなく使われる。

「ありがとうね」という言い方は意外と使用頻度が少ないかもしれない。

「ありがとねえ」はよく使うな。

「ありがとさん」とか「ありがとない」とかはほとんど聞かない。

「ありがとよ」はもっと聞くことがないかなうちの近辺では。

勿論この「ありがとね」という表現とて全国的な言い回しなので遠州弁という訳ではないのだけれども、遠州人が好んで使う表現ということではないかなと。

例文

「ほい、奥さん。あんたこないだホントありがとね。美味しく頂戴したでねえ。で、これよかったらもらってくれんかねえ。」

  (奥さんこの間は本当に頂き物有り難うございました。とても美味しくいただきましたよ。それといってはなんですが良かったらこれを貰ってくださいな。)

「あれえ、そんなあ奥さん。そんな気い遣わんだっていいだにい。」  

  (いやそんなお気遣いされなくとも結構でしたのに。)

  

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あれ

「あれなにゆってるよを」だとその訳は「ちょっと何を言っているの?」。

「あれこれそれ」の「あれ」ではなく感嘆詞の「あれ」。童謡かなんかでの「あれ松虫が鳴いている」の「あれ」。イントネーションも歌とほぼ同じ「あ」を強く言う。意味についてはほぼ辞書に記載されているのと同じなので省くとして。

辞書に載ってるくらいだから方言ではない。ないけれども遠州弁での使い場所・頻度については地方性があるかと思って記載。男女共用だが頻度は女性の方が多い気がする。

女性言葉に限れば「あら」というのが一番ニュアンスが近い共通語か。しかし男はあまり「あら」は使わないので適当な言葉が思い浮かばない。

意外とか心外とかいった時に発することが多く訳すと「え~?」とか「そんなあ」とか「ちょっと(待て)」みたいになることが多い。たまあに調子合わせで意味を持たない場合もある。

「ほい」ほどに上から目線でもなく「いやだやあ」ほど近い距離でもない。程よい距離感があって使い勝手はいい。近い言葉では「うそ」というのもあるがこちらは連発すると印象が悪くなる効能があるので口癖になると注意されやすい。

「あれえ」という言い方もあるが「あれ」との違いは「ちょっと」が「ちょっとお」とか「おや」・「あら」が「おやあ」・「あらあ」になるようなものか。

例文1

「あれあんたこんなとこいていいだ?」

  (おや?君はこんなとこにいていいのか?)

「なによをいちゃかんだけ?」

  (いてはいけないのかよ。)

「だってきんのう電話で必ず伺いますっつってんかったけ。山田さんとこにい。」

  (昨日山田さんのところに電話で必ず伺いますって言ってただろう。)

「やっべっ。そうだった忘れかあってた。」

  (やばいそうだった忘れかえってた。)

例文2

「このくっさぶいになんでいっつもそうめんなんだ?」

  (どうしてこんな寒い日なのにいつもそうめんなんだ?)

「あれこないだこれでいいっつってたじゃん。」

  (え~?この間これでいいって言ってたじゃないの。)

「だれんそんなことゆったよを。いっちゃいんにい。」

  (誰がそんなこといったんだ。言ってないよ。)

「ゆったじゃん食欲ないで暫くそうめんばっかにしてって。」

  (言ったでしょう。食欲ないから暫くはずうっとそうめんにしてくれって。)

「いつの話ししてるだあ夏のこんじゃんかあそれ。」

  (いつの話ししてるんだよ。夏のことじゃないかそれは。)

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あんたとあんたあ

「あんた」と「あんたあ」で意味が極端に異なる訳ではないが遠州ではこの二種類を使い分けることが多い。

暴言的に述べれば共通語に訳したら「「あんた」=「あなた」で「あんたあ」=「あなたは」であろうか。ただし「あんたあは」と言い方もあるのであくまでそういうニュアンスだということで正しいことを言ってる訳ではない。

従って「あなたはいつだってそう。」という文章を

「あんたいつだってそう」だときつめな印象になり大分感情的な表現に聞こえる。

「あんたあいつだってそう」だと俯瞰的な要素があって冷静に判断して言ってる印象になる。

発音は「あんた」は「た」と「あ」がアクセント位置になる。これは全国共通か。

「あんたあ」については「あ」と「たぁ」にアクセント位置が置かれるパターンがあり、「たぁ」の場合距離を置いたよそよそしい(他人行儀な)感じになることがある。アクセントの違いによるニュアンスの違いについては存在するのだが説明する程の知恵がまだないのでいつか改めてということで。

例文

「雑草ぼうぼうだねえ。」

  (雑草生え放題だねえ。)

「一本っつぬかにゃかんだかいねえ。」

  (一本づつ抜かないといかないのかな。)

「草刈機ないだ?」

  (草刈機はないの?)

「今そうゆう時期だもんでうちんの親戚んとこに貸してて無いだよ。あんたぁとこのわあ?使えんの?」

  (今こういう時期なんで家のは親戚使うっていうことで貸してあるんだ。あんとこのはどうなの?使えないの?)

「うちんのぼっこくなったもんで修理だいてるで今ないだよ。」

「そんじゃどうする?」

「今日のところはやめにしまいか。」

「そうだの。機械戻ってきてからにしまいか。」

この文章で「あんたぁ」ではなく「あんた」を使うと「うちはこうだけどあなたのところはどうなの?」というのが「あなたの使えないの?」という訳に変わることになる。従って返す言葉も「うちのも駄目でえ。」という言葉が付け加えられることになる。

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あっかあ

「赤ん坊」の事。完全なる野郎言葉で女性が使うと子供に対する愛情があるのかと疑われかねないので使うことはないであろう。

遠州弁の中においても非常に粗野な部類に属するので使い手は少ない。普通はやはり「あかんぼ」という人が多い。

身内の子を指せば共通語の「愚息」と同じような謙遜であるが

他人の子を指せば中傷になる。

大きくなったら「がきんちょ」・「がき」となる。もっと大きくなったら息子なら「むっすー・こんぞう」・娘なら「むすめ・むっすう」とかになる。

例文

「最近寝不足でやあ。ホント昼間眠たくてかんだわ。」

「寝れんだけ、寝てれんだけ。」

「あっかあ夜泣きしてやあ。大人しくしてりゃど可愛いだんな。」

「まあちっとの辛抱だいね。その内小憎らしくなるだで今ぁいっちゃん可愛い時期かもしれんにい。にしたっておっかさの方が大変だらあ。」

「確かに。でもうちんのあっかあいん時だっていっつも眠たそうだったで違いがわからんだよ。」

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あれやぁ

共通語だと「あらま」に相当するのであろうか。

関西風の「あれだよ」という意味での「あれや あれ」とは意味もイントネーションも違う。

とにかく意外だということを伝えたい驚きの表現。男女共用の言葉。遠州独特かどうかは定かではない。

近い言葉では「あれなによを」・「冗談だらあ」。

驚愕の度合いを強くしたい場合は「うっそを、なによを」・「うっそをなんで?」・「なにや」。

例文

「あれやぁ。なにい。来ただ?」

  (うわっ。なんだよ来たのか。)

「しょんないじゃん おめえじゃ 何せすか 分からんくて 心配でならん だもんで。」

  (仕方ないだろ。お前一人じゃ何しでかすか分からなくて心配でしょうがないんだから。)

「まかしょっつったじゃん。信用しんだねえ。」

  (まかせなって言ったでしょうに信用しないんだねえ。)

「よおゆうわあ。過去の実績考えりゃのっ。当然だらあ。」

  (よく言うよ。過去の出来事思い出せば当然だろう。)

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あつぼったい

「ぼったい」表現のひとつ「あつぼったい」。共通語でも「やぼったい」という表現があるので必ずしも方言ということではないのだろうが「くらぼったい」(薄暗い)・「しめぼったい」(湿り気がある)とかは方言扱いされてるので一応記載。

「暑ぼったい」と書けば

意味は「やや暑苦しく見える」。自分が暑ければこういうことは言わず「あちい」で済むので自分で自分の事をいう表現ではない。あくまで他人から見てそう見えるということである。

「厚ぼったい」と書けば

意味は「着膨れして見える」・「過度に塗り重ねられて厚くなっている」・「なんか知らんが厚くなってる(膨らんでる)」とか。こちらは人に対してだけではなく物とかにも使われる。「むくんでる」状態を「あつぼったい」というかは微妙。

「熱ぼったい」というのはあるのかもしれないが聞いたことがない。なんとなく熱いという表現であろうがそういう場合は「熱いっちゃあ熱い」・「ちいと熱い」もしくは「ぬくとい」を使うのでなさそうな気がする。

熱い表現の場合は「熱そう」・「熱(ねつ)んある」などと普通は言い「ぼったい」は使わないと思われる。

「ぼったい」はなんとなくそう見えるというニュアンスなので曖昧・微妙を表現するものである。

例文

「山行く準備でけたけえ。」

  (山行く準備は出来た?)

「おお、いちおー みとくりょ 忘れもんあっちゃ堪らんで。」

  (うん。忘れ物あったりなんかしたら大変だから一応チェックして見て。)

「がんこ着るもんすけないなあやあ。最初っからがんこ着てくだ?」

  (随分と着るものが少ないねえ。始めから沢山着てくの?)

「着てきゃせんよを。そんなことしたら暑くてしょんないじゃん。」

  (着てかないよ。そんなことしたら暑くて堪らないじゃないか。)

「ほんじゃこれっぱかで大丈夫けえ?山あ冷えるにい。」

  (それだったら山は冷えるんだからこれっぽっちじゃ不安だなあ。)

「夏だにいとんじゃかないらあ。厚ぼったくしたじゃぶしょったいじゃん。それに荷ぃも軽くしたいしやあ。」

  (夏だよ構わないだろう。着太りじゃ見た目が悪いし荷物も軽くしたいしね。)

「かっこ気にして山の天気なめとるとえらい目に逢うにい。」

  (格好ばかり気にして山の天候なめると痛い目に遭うよ。)

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あめま

「雨間」と書いてなんと読むか。共通語では「あまあい」と読むのが一般的であるみたい。他には「あまま」・「あめま」と読むとネットで調べた辞書にはそう書かれてあった。

意味は雨と雨の間。つまりわずかな雨上がりの晴れ間。

まあ特に遠州弁でもなんでもない話しではあるが、うちの集落では「あめま」という人が多いということと「あまあい」なんて言葉普段使わないぞということが特徴かと思って記載。

他の言い方では当たり前に「雨やんでるうちに」・「また降らんうちに」とか共通語と同じ言い方をして地方ゆえの特異性はない。

雨間の内の雲間の晴れ間

例文

「雨やんだかいねえ。」

  (雨やんだかなあ。)

「どうだかいやあ。みてこすか。」

  (どうかな。見て来ようか。)

「やんでるならちゃっと戻らすかな。」

  (やんでいるのなら急いで戻ろうかな。)

「天気予報じゃいちんちじゅう雨降るっつってたで雨間のんちに行った方ん正解だの。」

  (天気予報だと一日中雨が降るって言ってたから雨やんでいる内に行った方がいいかかもね。)

「確かに。そうだらあ。」

  (そうだよねえ。そう思うよね。)

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あんめえとないじゃん

「あんめえ」は以前紹介した「あるまい」の訛った表現であるが、基本野郎言葉で婦女子が使う表現ではない。

婦女子が使うとしたら「ないじゃん」が一般的である。ただしこれは男女兼用なので野郎も使う。

「あんめえ」は「あるまい」の変化したものなので「あるまいて」・「あるまいに」・「あるまいや」といった古い表現っぽいのと同様「あんめえて」・「あんめえに」・「あんめえや」という使い方も可能というか対応できる。

「ないじゃん」は「ないじゃんに」・「ないじゃんや」などといった使い方はない。

「しょうがない」は「しゃああんめえ」・「しょんないじゃん」。ちなみに「しょうもあんめえ」という言い方はない。「しょうがあんめえ」はあるが。

「~じゃあるまいし」は「~じゃああんめえし」はあるが「~じゃないじゃん」と言うよりも「「~じゃありもしん」という言い方を使うことが多い。

話しがずれるが「ありもしん」は「ありもせぬ」が訛った言い方と想像される。したがって頭でっかちに考えると「ありもしん」の方が「ないじゃん」よりも「あんめえ」の対として合ってそうに思えるが、実際には繰り返しになるが野郎が「あんめえ」を使うところでは婦女子は「ないじゃん」を使うことの方が多いような気がする。

例文

「あれえ。行き止まりじゃんかあ。もう着けんで帰らすか。」

「駄目だよを。今日行くっつってあるだで。行かにゃかんだよ。」

「行き方分からんだもん帰るしかありもしん。しゃああんめえ?」

「しょんないじゃないだよ。分からんだったら道歩くっとる衆とかに聞きゃいいだで。行くにい。」

「ほんなことゆったって歩いてる衆なんか見たか?見ちゃいんらあ。」

「家んあるだで誰ぞおるらあ。」

「家って工場ばっかじゃん。日曜に人おるかあ。」

「ホント工場街って道ん碁盤の目えみたいでどれも一緒にめえるでいやだやあ。」

「西も東も分からんくなってるだで家に帰れるかどうかも怪しいだでなあ。」

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あんなあ

遠州弁での意味は2通りある。

*あのねえという意味。というか訛った表現。

用途は呆れてる事を伝える為に使われることが多い。

たまにいいにくい事を切り出す時に使う場合もある。

*あんなのという意味。

特に説明は不要か。

例文1

「なにやってるよを。普通上から順番に取ってくもんだにい。」

「ふんだだこたあねえらあ。わしこうやれっておしわってきただにい。」

「どこでそんなこと教わっただよ。」

「学校でだよ。先ず下位より始めよっつうじゃん。」

「あんなあ。・・・はあええ。好きにして。」

例文2

「おお~おんしゃのやり方○○にそっくり。」

「あんなあと一緒にせるなやあ。気色悪いにい。」

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ありええへん

重箱の隅をほじくるような非常に些細な事なのではありますが

関西風の「ありえへん」という言い方は遠州弁ではほとんどしない。

こういう場合は「ありえん」・「ありえやせん」・「ありゃへん」などを使うことが多い。

「ありええへん」・「ありええせん」は遠州でも使うということで。「ありえせん」というのはあるが「ありえへん」はほとんどない。

もちろんイントネーションも異なる。

近い言葉で「信じれん」というのがあるが、こちらのニュアンスは「ありええへん」は不可能だみたいな否定のニュアンスであるのに対し、「信じれん」は想像すらつかないといった呆れたニュアンスが強めになる。

例文

「やあ馬鹿っつう、おんしゃなあ なにょえらそうな口たたいてるだあ。そんだだこんはなあ、てめえで稼ぐようになってから物言えっつうの。親のすねかじったか親の威光の傘の下でなまいきこくじゃねえよ。ホントありええへん。」

  直訳は厳しいので別の言い回しで(卒爾ながら申し上げます。貴方様のおっしゃられようは痛く不遜かと思われ斯様な言動におかれましては御自身が自立した上で申されるが妥当かと存じます。扶養の身もしくは親の威を借りての言動では横柄としか言い様がございません。何卒己が身の分をお弁え下さい。)

  もう少し柔らかく訳すと(ボク。ママのミルクはここには無いよ。ボクにはまだ早いからもうおうちにお帰り。)

   もっと端的に言うと(十年早いわ。)

とにかく「ありええへん」に凡てが集約されてるということ。これだけでも十分意味通るがまあそれじゃ味気ないんで。

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