1-2・遠州弁ひ行

びっけ

「びり」。「びりっけつ」がはしょられて出来た表現であろうか。

子供の時分によく使っていたが大人になると「どべ」・「けつ」・「どんけつ」とか言うようになったので子供言葉であろう。この言い方が遠州弁の言い回しなのかは不明であるが、ネットで調べると関東辺りでも近い言い回しがあるみたいなので、うちんとこの衆らの勝手な造語ということではなさそうでちゃんと存在しているのは間違いないところであろう。というかむしろこういう言い方を遠州でもしてたという言い方の方が正しいか。男子女子共用の言葉。

使いどころはなにせ大分前の事なので細かいことは思い出せない。が、悪意や中傷の籠もった表現ではなかったような気はする。

例文

A「やあ、野口公園集合な。」

  (いいか野口公園に集合だぞ。)

B「何時にい。」

  (何時にだよ。)

A「家にカバン置いたらちゃっとでえ。」

  (家にカバン置いたら直ぐに来るんだよ。)

C「そんなどいい加減でいいだか。」

  (そんな大雑把でいいのかよ。)

A「びっけの奴みんなでしっぺな。」

  (最後に来た奴は皆からしっぺということで。)

D「それずいぶんじゃんわし一番遠いだに。」

  (それはないよ僕が一番遠いんだから。)

A「ダメ、はあそう決めただで。」

  (問答無用。もうそう決めたんだから。)

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ひらう

「拾う」(ひろう)の訛った表現。ほぼ年寄り言葉。男女共用で使われる。

なんか旧仮名遣いみたいだが実際にそう言う。

「落ち葉拾い」を「おちばひらい」とは普通言わないが「葉っぱを拾いなさい」とかでは「葉っぱひらいない」とか言う風に使う状況に応じて訛る。

例文

「あんたこんなのどこでひらって来たよを。」

  (あんたこんなのどこで拾って来たの?)

「失礼しちゃうやあ。買って来ただよ。ちゃんとしたパンツだでねえ。」

  (随分なこと言ってくれるじゃない。買って来たの。ちゃんとしたパンツなんだから。)

「うっそだあ。落ちてたのひらって来たとしか思えんにい。穴んぼこぼこ開いてるしい。」

  (信じられない。落ちていたのを拾って来たとしか思えない。破れがそこいらじゅうあるじゃないの。)

「馬鹿こいちゃかんて。結構しただにい。」

  (冗談じゃないわよ。結構したんだからね。)

「やんぶれたズボンなんかなに使うよを。わきゃあわからん。」

  (破れたズボンなんか一体何に使うの?訳が分からない。)

「いいだよ分からん衆に何言っても無駄だで分からんでもを。」

  (いいの分からなくても。分からない人に説明しても無駄だから。)

「そんなんで外歩くじゃないらねえ。こぶしょったい。」

  (それはいて外に出るんじゃないでしょうね。見苦しい。)

「いらんこんじゃん。」

  (余計なお世話。)

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ひどいことゆう

「きついこと言うなあ」というニュアンスの物言い。多少むっとしている状態であることが多い。

「ひどい」は漢字で書くと「酷い」・「「非道い」と二通り辞書に記載されてるが此処での場合は「非道い」という意味での使い方であろう。残酷な事言うということでも使われたりもするが、人の道を外れてるみたいな思いやりのなさを指すつかいかたの方が多い。

「ひどいことゆうやあ」の記事でも書いたが「やあ」がつくと「勘弁してよと」いう感じになる事が多いが「やあ」がつかないと「そんな言い方しなくてもいいでしょ」みたいな勢いになることが多い。

より強く反論する場合は男言葉なら「なんちゅうことぬかすだあ」女言葉なら「なんちゅうことゆうよを」とかになる。こちらは「ふざけんなよ」並みの怒った状態に近い。

もちろんいずれも物は言い様なので言い方のニュアンスによりけりで変化はあるが。

例文

「こんだけバーが高くなるとなかなか跳べる奴いんなあ。だけん次のあいつなら跳べそうだなあやあ。」

「あいつじゃ跳べんよ。」

  (あいつには跳べないよ。)

「なんで?中学の時分高飛びやってたって言ってたにい。」

  (どうして?中学で高飛びやってたって言ってたよ。)

「だってこないだ彼女に振られたばっかだもんで心が沈んでる分重たくなってて高く飛べんだもん。」

  (なにしろこの間彼女に振られたばっかだから心が沈んでる分重くなってて高く飛べれないからね。)

「ひっでえことゆう。本人にいったらすかぁ。」

  (随分な事言うなあ。それ本人に伝えてやろうか。)

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ひつこい

「しつこい」の「し」が「ひ」に訛った表現。個人差があるので遠州人が皆そう言ってる訳ではない。

共通語だけれど「こい・こく」とつながるのは遠州弁っぽい表現なのである。

個人的な解釈であるが、この表現の便利なところは「執拗に」(しつように)が「ひつように」(必要に)とも誤って聞こえるので若干波風が穏やかになる効能があること。

同じようなことでは「思い出して」を遠州弁だと「おもいだいて」となるのであるが、この表現だと「思い抱いて」(おもいだいて)とも解釈できなくも無い掛詞っぽくなる曖昧さがでてくる。

根拠がある訳ではないがどちらかというと遠州弁は「し」を嫌がる傾向にあるのであろうか。言ってる本人は意識していない場合が多いが「しっちゃかめっちゃか」を「ひっちゃかめっちゃか」という人もいる。さすがに「しんぶんし」を「ひんぶんひ」という人はいないが。「ヤル気出して」は「ヤル気出いて」とか言う風に「し」は「い」や「ひ」とかに変わる傾向になるのは確かであろう。「お金貸して」を「お金貸いて」とは言わないが「返して」は「かやいて」と言う。

脱線したが、「し」と「ひ」の入れ替えは江戸の言葉とは逆ともいえる。東を「しがし」とか人を「しと」とかいう言い方は遠州ではまずしない。そういう意味では関西系の表現になるのであろうか。

「ひつこい」を「ひっこい」という人は流石にいない。

例文

「馬鹿ひつこい。」

  (も~しつこいんだからあ。)

「なにがあ。」

  (どうしたの?)

「聞いてやあ。あそこんさあに座ってる客。さっきいから馬鹿何回もまだでけんだかって言ってくるだにい。」

  (聞いてよ。あそこに座ってるお客。さっきから何度もまだ出来ないのかって行ってくるの。)

「注文わあ。」

  (何頼んだの?)

「○○の修理。小1時間くらい掛かりますよっつってええよっつうもんで待っててもらってるだけどやあ。5分おきくらいにまだかまだかってひつこく聞くだよ。」

  (○○の修理。小1時間程掛かりますけどって言って了承して待っててもらってるんだけど。5分おきくらいにまだかまだかってしつこく聞いてくるの。)

「やっちゃおれんの。」

  (やってられないね。)

「だらあ。おこらんだけましだけど。なんしょひつこいだよ。」

  (そうでしょ。怒り出さないだけましなんだけど。とにかくしつこい。)

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ひましてる

暇な状態でいると言うこと。「お茶してる」とかいうのと同じ使い方なので方言ではなく最近の日本語と言うほうが適切か。でも案外昔っから使ってるような気がする。ただし「お茶する」はあっても「ひまする」は聞いたことが無い。暇はしてるもんでするもんじゃないということか。

これをより遠州弁っぽく言うと「ひまこいてる」・「ひましてけつかる」とかになるのだがお下品なのでタイトルは「ひましてる」とした。

どちらかというと自分で言うならともかく他人からこういわれるとむかつく感じに陥ることが多い。

例文

「あんたひましてるなら頼まれてやあ。」

  (ねえ暇なら頼まれてよ。)

「なにを~。」

  しぶしぶ(何?)

「スーパー行ってこれ買ってきてやあ。」

「はいね。」

  (はいはいわかりましたよ。)

「なに手えだしてるよ。」

  (何?この手は。)

「金。かっさらって来いっちゅうだけえ。」

  (お金頂戴。それとも盗んで来いとでもいうの。)

「それっぱかもってるらあ。後でくれるでちゃっと行ってきて。」

  (それ位持ってるでしょ。後で払うからすぐ行って来て。)

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ひる

漢字で書くと「放る」。辞書にも載っているので方言ということではないが、使われなくなりつつある言葉であろう。遠州ではいまだ現役で使われているということで。

もっとも世代的には大分年齢は上での話しではあろうが。

意味は辞書等によると

(勢いをつけて)体外へ押し出す。屁・大便・鼻水等

とある。意味的にひねり出す的な使い方ということでは同じなので特に方言として変形している訳ではない。イントネーションも多分共通語と同じであろう。

鼻水については「洟を擤む」(はなをかむ)を使うので「鼻水をひる」というのはあまり聞いた事が無いが、屁と大便に関しては「屁をひる」・「糞ひってきた」とか使うし、それ以外にも遠州では小便に関しても「小便ひる」と使う。

用途としてはあけっぴろげとか豪快さを表現するための場合が多く。女性が使う言葉ではない。

似たような表現では一発噛ますとか屁を噛ますという使い方の「かます」(噛ます)というのがあるがこちらはどちらかというと見せつけるみたいな印象を受けるので似て異なるものであろうか。

例文

「暫く居んかったじゃん。どこ行ってたよー。」

「糞ひってきた。」

「きったねえなあやあ。ちゃんと手え洗っただらなあ。」

「おうよ!当然じゃん。ついでに顔も洗ってきたわい。」

「にしちゃあ、鼻毛出てんぞ。鏡見るらあ普通。」

「見んでも洗えるわあ。嘘じゃないでねえ。失礼しちゃうやあ。」

「わかったで鼻毛しまいない。ぶしょったい。」

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ひやかいとく

冷やしておくと言う意味。誰かを冷やかしておくとかいう意味でも使って使えないことはないが基本的には冷たくしておくことで使う。

例文

「家でスイカんなって食いおせんであんたよかったら食べてやあ。」

  (うちの菜園でスイカが生ったんだけど食べきれない程獲れたからよかったら食べて。)

「いつも悪いやあ。ほいじゃちゃっと冷蔵庫入れすかねえ。あっ!そうだ麦茶ひやかいてあったで飲んでってやあ。茶請けもあるで。」

  (いつも申し訳ない。それじゃあ直ぐ冷蔵庫に入れようか。ああそうだ麦茶冷やしてあるから飲んでいってよ。お茶菓子もあるからさ。)

「いいってそんなあ。気い使わんでよおホント。」

  (いいわよそんな。気を使わないでね。)

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ぶるさがる

ぶら下がると言う意味。

さすがに「ぶら下がり健康器具」とかを「ぶるさがり健康器具」とは言わないが、「ぶらさがり健康器にぶるさがる」とは言う。鉄棒とかでは当たり前に使う。「ぶらさがる」との使い分けは厳密にはないので個人的な憶測であるが、自然な物とか最初から吊り下げられてるような場合には「ぶらさがる」で自分を含めた人が意図的にぶらさげた場合には「ぶるさがる」を使うことが多いと思っている。

例文

「やあ、ぶるさがってばっかいんで回るかなんかせろやあ。」

  (ねえ、ぶら下がってばかりいないで回るとかなにかしなよ。)

「懸垂する筋力もないし逆上がりもでけん。ほんだで健康のためにぶるさがるっか能んない。」

  (懸垂する筋力もないし逆上がりもできない。だから健康の為にぶらさがることしか出来ない。)

「ええ歳こいて逆上がりもでけんだ?小学校ん時いざりででけるまでやらされんかっただけ。」

  (いい年して逆上がりも出来ないの?小学校で出来るまで居残りでやらされなかったのかい。)

「やったってでけんかっただもんでしょんねえらあ。」

  (居残りでやったけど出来なかったんだからしょうがないだろ。)

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ふんだだこんあらすかあ

そんなことある筈ないだろうと言う意味。

「そんだだこん」(そんなことが)の「そ」が「ふ」に変化している。

「あらす」という表現が非常に特徴的でもある。「あらず」ではないところが味噌。

どこぞの方言(多分名古屋)で「何を言ってるんだ。」を「なにゆーとらす。」という「らす」と同一とも思われる。

例文

「今日もまた早く帰るだか?残業もしんで。マイホームパパさんわ。」

  (今日も残業もしないでマイホームパパさんは定時で帰るのかい。)

「ふんだだこんあらすかあ。家じゃ邪魔者扱いでえ。」

  (そんなことはないよ。家じゃあ邪魔者扱いされてるもの。)

「じゃなんでいつもちゃっちゃと帰るだ?仕事うっちゃって。」

  (なら、どうしていつも仕事途中で切り上げてとっとと帰るんだ?)

「こんぞうの塾の送り迎えしんとおっかさにどんじかられるもんで。しょんねえだよ。」

  (息子の塾への送り迎えしないと女房にこっぴどく叱られるものだから。しょうがないんだよ。)

「そういうのも含めてマイホームパパさんっつうだ。幸せかどうかなんてとんじゃかねえわ。」

  (そういうのも含めてマイホームパパさんって言うの。本人幸せかどうかなんて関係ないよ。)

「そんなもんかねえ。」

「おっかさ怖いつったってあんまし度が過ぎると会社でいらん子だっつって嫌われるにい。」

  (奥さん怖いからと言ってあまり度が過ぎると会社の上の方に目をつけられて居づらくなるよ。)

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ひんしょったい

貧しょったい。貧乏臭い・みすぼらしいと言う意味。「ぶしょったい」(不精ったい)とよく似た使い方の言葉。それだけに「ひんしょったい上にどぶしょったい」(貧乏臭い上に格好悪い)となるとどんびき状態このうえないということになる。

例文

「あんたがそれ着るとなんかひんしょったいやあ。なんでかねえ。」

「悪かったねえひんしょったくてぇ。」

「いつもど派手なもんばっか着てるもんだで、そーゆう地味なのらしくない風に見えるだかいやあ。」

「悪かったねえ派手好きでえ。」

「それとも顔ん派手だもんでえ、服ん地味だとおかしくなるだかいやあ。」

「失礼こいちゃうやあ。あんたねえ、喧嘩売ってるだか?しまいにゃ怒るにい。」

あくまで親子のような関係性での会話。知人隣人に向かってこんな事言えば人間関係が崩れるのは言うまでも無い。

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