1-2・遠州弁と行

ど その2

弩なのか度なのか定かではないけれど(多分度だと思うけど)遠州弁では「馬鹿」と「がんこ」と共によく使われる「ど」。

以前(その1)でも書いたけど「弩」をはめるとしたらサイズ・規模とか較べる対象と比較してという使い方で、それ以外は度を越すとか度が過ぎるとかいう意味合いの「度」を使うほうがしっくりくるという考えに至るのは私だけか。

「ど凄い」・「ど旨い」とは「大層」・「相当」というニュアンスになるのであるが、全てがこういうニュアンスになるかというとそうでもない。

「どばか」だと共通語のニュアンスでは「お馬鹿」が近い。愛嬌が増すというか意味合いが「大層」・「相当」というものではなくなる。

「ど天才」だと天才を振り切ってちょっと変という感じになる。

「ど頭いい」となると切れ者過ぎて寄り付き難いみたいな感じになる場合もある。

つまり度を越えてしまうと形が崩れるという様を評してる感じになる。もちろん悪口に近い「変態」とかに「「ど」をつけて「ど変態」とかにした場合は「大層」・「相当」という訳が相応しいのであるが、本来褒め言葉であろう物に対して「ど」をつけるとちょっと待て(引く)という勢いになることもある。

最上級で褒めたい場合には「ど」よりも「馬鹿」・「がんこ」を使うほうがそう聞こえる気がする。

「あの人どいい人だにい」というよりも

「あの人馬鹿(がんこ)いい人だに」という方がしっくりくるものである。

共通語でも「馬鹿正直」・「がんこ正直」という言い方はあっても「ど正直」というのがないのと同様なものであろうか。

例文

「あれはどうするよを。」

「ど重いで人集めてから明日やる。」

「これは?」

「ど面倒くさくて気が向かんで後にせすだあれ。」

「それわあ。」

「そのうちやるでいいよ。」

「じゃ今あんたなにするよを。」

「やるこんないで呑みい行くけえ?」

「ホントもう どいい加減でやんなっちゃう。仕事しない。」

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とこ

「ひととこ」だと一箇所。つまり「ところ」と訳せばいいのか。

数でなく「いいとこ」とか「誰それのとこ」とかいう使い方であれば分かりがいいか。

別に「一」だけに限ったことではなく

「ふたとこに分かれて」(二箇所に分かれて)

「みとこ・よとこ・いつとこ・むとこ・ななとこ・やとこ・・・・・・」

とかいった風に色々な数でも使われる。さすがに十を越えると使うかどうかは疑わしいが。広い地域で使われる表現で遠州独特という訳ではなかろうが遠州でも使うよということで記載。まあ多分古い日本語なんだろうかな。

ちなみに「ひととこ」。関東とか甲斐の方では「同じ場所」と訳されてるところもあるみたいだが「ずうっとひととこに居る」が同じ場所と訳すのは理解出来るが「AとBはある意味同じとこみたいなもの」というのを「AとBはある意味ひととこみたいなもの」という使い方をするのであろうか。遠州では違和感がある感じになりこういう使い方はしないと思うのだが。ちなみにこういう場合遠州弁では「AとBはなんしょいっしょくたあなもんでえ」とかになる。

例文

「そんなひととこにかたまってんで広がりない。」

  (そんな一箇所にかたまっていないで広がりなさい。)

「さぶくてしょんないだで広がれすかや。」

  (寒くて堪らないんだから広がれないよ。)

「はしくり廻りとかすりゃあぬくとくなるだで散りない。」

  (走り回るなりすればあったかくなるだろうから散りなさい。)

「そんな若かないだで無茶でけすか。」

  (もう若くないんだから無茶出来ないよ。)

「高校生がなにぬかす。」

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どべたくそ

へた→へったあ→どへた→どべた→どんべた→どべたくそ

個人差はあるが遠州弁における下手くその最上位の表現か。

普通遠州弁で凄く・物凄くという場合「ど」・「ばか」・「がんこ」が使われ、大抵はどの表現でも均等に使うのだが「へたくそ」だけは「がんこ」・「ばか」の使用は少なく多くは「ど」が使われる。

そういう意味では珍しい固有の表現ともいえるのではないか。

感覚的には「どべ」(ビリっけつ)+「へたくそ」の合体系のように聞こえ、とにかくこれ以下は見た事もないようなへたくそという印象を受ける。

ただし必ずしも中傷を目的とする表現ではなく時と場合にもよるが、大方は「見てられない」というニュアンスではある。したがって言われた方は陰口であろうとそれほどトラウマになるほどショックということに陥らない場合が多い。

例文

「やあどべたくそ。かしてみい。」

  (も~下手くそだなあ。俺と替われ。)

「いいよわしんやるでえ。」

  (大丈夫だよ俺がやりきるから。)

「みちゃおれんもんでゆってるじゃん。」

  (見てられないから言ってるんだよ。)

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どうせすかいやあ

「どうせすでえ」(どうするよ)と言う記事も書いたがその系統で「どうせすかいやあ」。「い」を省いて「どうせすかやあ」という表現もある。

意味はどうしようかな・どうやろうかなと言う意味。

深刻・真剣に思案してるような場合にはあまり使われず、共通語に訳すと「う~ん」というニュアンスの方が近い。

「どうしまいかやあ・どうしまいかねえ」(どうしたらいいんだろう)は他人にどうしたらいい?と尋ねてる雰囲気も含むことがあり、「どうせすかいやあ」は自問自答であくまで自身で決着判断つけるつもりの時に吐く言葉というニュアンスが強い。

そういう意味では「如何にしてくれようぞ」という言葉に近いと言えば近いのかも。

「どうせすか」はどうしようか。なあという思惑の表現が削れたニュアンスになる。

「どうせすだかいやあ」となると「どうするつもりなんだろう」となる。

例文

「ん~。どうせすかやあ。」

  (う~んどうしようかなあ。)

「なにょう珍しく頭使ってるでえ。」

  (何珍しく考え事してるんだ?)

「失礼しちゃうやあ。人んど真面目に考えてるっつうだに。」

  (失礼な。人が真剣に考えてるっていうのに。)

「で、なによー。」

  (それでなに考えてるんだ?)

「今日の昼AランチにするかBランチにせすか悩んでるだよお。」

呆れて「はいはい好きにしてくりょー。でもあれだにい、どっちかっつうと昼休み入ってからにして欲しいだけどやあ。」

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どっさぶい・どさぶい

滅茶苦茶寒いと言っている。

「ど」ではなく「馬鹿」を使うと

「馬鹿さんぶい」・「馬鹿さっぶい」とかになる。

「寒い」と言う言い方は「さぶい・さっぶい」の他に「さんむい・さむ」というのもある。「ちゃぶい」・「ちゃっぷい」もあるが「ちゃむい」はあまり聞いた事がないし「ちゃっむい」あどは聞いた事がない。

「くっちゃぶい」という「くそさぶい」の変形バージョンもある。

体感の度合いを大雑把に表すと(遠州でも地域差はあろうが)

死ぬ<殺す気か<ちんちん<熱い<うだる<だりい<あったかい<ぬくい<ぬくとい<中略(普通)<ひんやりする<ちべた<寒い<さぶい<さんぶい<どさぶい=馬鹿さぶい<くっちゃぶい=くそさぶい<死にそう<死ぬ

例文

「やあどさぶいなあ。」

  (今日は冷えるねえ。)

「きんのうぬくとかっただに今日がんこだらあ。」

  (昨日は温かかったのに今日は冷えるねえ。)

「三寒四温たあゆうけどひょうんきんだの。」

  (三寒四温とはいうけれど差が凄いね。)

「なにその山間紫苑って。そんなの植わってったっけか。」

「ゆうてる意味が分からんぞ。なんで植わるだあ。」

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どべた

物凄く下手くそという意味。「どべたくそ」という言い方もある。

イントネーションは「べた」と「どべた」(平坦)の二種類がある。ニュアンスの違いは「ど」を強調した方は本当の下手に聞こえ平坦の場合は要領が悪い程度に聞こえる。

遠州弁では「ど」と「馬鹿」を同じように使うがこの場合「馬鹿べた」とは言わず「馬鹿へた」となる。

「どべ」だと最下位という意味になりそれと意味が掛かっているようにも感じられる。

これの上の表現は「どんべた」・「馬鹿がんこへた」とかになるのであろうか。「どべた」はまだ許される範囲内であるが「どんべた」だともう任せられない領域を表わすことが多い。個人的な感覚としては「どべた<どんべた<どべたくそ<みちゃおれん」というランクで表現してる。

例文

「これだれんやらすよを。」

  (これは誰が担当するんですか?)

「○○にやらすと思ってるだけが。」

  (○○君にやって貰おうと考えているんだけど何か問題でも?)

「あいつぁこうゆうのどべただにい。こないだもへぼこいてたもん。」

  (彼はこういったのは不得意ですよ。この間もミスしてましたから。)

「ほんじゃおんしゃやるか?」

  (それなら君がやるかい?)

「いんやあ・・・ほんだったらやっぱ○○でええわあ。」

  (いやそれは・・・それならやはり彼でいいと思います。)

「現金だのえ。」

  (現金だねえ。)

「ようゆわれだいね。」

  (よく言われます。)

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どしょーもない

 「どうしようもない」と間違いやすいのだが、「ど+しょうもない」物凄くくだらんとかつまらないとか全く意味がないとかいう意味である。

「どしょんない」という言い方もあるがこちらはとてもどうしようもないと物凄くくだらないと両方の意味を持つ汎用タイプの表現である。

「どしょーもない」と同じような表現では「ど馬鹿」・「馬鹿やあ」などというものがある。馬鹿の表現だとつまらないというニュアンスはなくなり純粋にお間抜け的くだらん系ニュアンスになる。

「どうしようもない」と言いたい場合には「しょんない」(どは付かない)・「やりようない」・「せずようない」・「しようありもしん」とか色々ある。

例文

「今日はあいつぁこんだけえ。」

  (今日はあいつは来ないの?)

「あいつぁ家でどしょーもないこんせるでこんてさ。」

  (あいつは家で他愛の無い事するから来ないってさ。)

「なによをどしょーもないこんて。」

  (なんだいその他愛の無い事って。)

「知らんだあ。なにやってるだか。なんしょ行かれんだって。」

  (知らない。なにしてんだかねえ。とにかく行けないって。)

「まあ本人がそうゆうだで恥ずかしくてゆえんような相当どしょーもないこんだらなあ。」

  (まあ本人がそう言うんだから恥ずかしくて人に言えないような相当くだらんことなんだろうな。)

「嫌々家のてんだいやらされてるかも。」

  (嫌々家の手伝いさせられてるのかもね。)

「それもはどしょーもないなあ確かに。」

  (それはつまんないよなあ確かに。)

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とっぽい

「とっぽい」って共通語じゃないか?そう思っているのだけれど、検索で「遠州弁とっぽい」というワードでこられたお方があったので。方言かどうか疑問ではあるが、ここいら辺で使われてる言葉の意味を記載。ただしあくまで一例であって必ずしもこういう使い方だけという訳ではないのであしからず。

辞書とかだと「とっぽい」はキザで不良じみた様となっているが、うちらんとこはあまりそういう使い方では確かにない。むしろアホな奴に近い感じがする。

「どんくさい」とどう違うかというと、出来ない理由がのそのそしてるとかいう動きがのろい・まだるっこい状態を指すのが「どんくさい」で、「とっぽい」は場の空気に合わないことをするとか浮いたことをするようなことを指す場合が多い。

突出っぽいと言うほうがニュアンス的には近いのであろうか。まあ、とんがった奴と括れば共通語と一緒ではあろうが。

余談だが大昔、「トッポジージョ」なる鼠が主人公のテレビ番組があってその登場する鼠の様がとっぽい感じではあった。あっただけでそこから生まれた言葉という訳では決して無い。決してないのであるがそういうところからアホな印象がとっぽいという言葉の意味に加味されてきているのかもしれない。あくまで想像である。

例文

「きんのうの会議おもしろかったにい。」

「なんでえどうしたでえ。」

「○○がさ、課長の意見に楯突いて係長むっとしとった。」

「とっぽいことするじゃんかあ。あいつにそんな甲斐性あっただけえ。」

「それがさあ。後で聞いたら会議寝えとったらしくてえ。いきなし意見聞かれてその場しのぎなことこいたら課長の案と逆だったっつうこんらしいんだわあ。」

「ほいじゃあ今日あいつん席クマのぬいぐるみでも置いてあるだかいやあ。」

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どたける

暴れるというニュアンス。荒れ狂うという意味か。

「どたけってやる」だと「暴れてやる」という意味になる。

要は場の空気を破壊してやるとかいう使い方で暴力を振るうと言うことではない。

なあなあの雰囲気に活を入れる一石を投じる発言や行動の場合とかで使われることもある。

何でこういう表現が生まれたかを考えると二通り想像できた。(両方とも私見であり根拠のある話しではないのでお間違いなきよう。)

*「ど」は「ど馬鹿」・「ど厭」とかいった強調する表現であるが、「どたける」もこの「ど」(弩・度)であるならば「弩+猛る」ということになる。

ちなみに「猛る」を辞書で引くと、荒々しく行動する・感情が昂ぶる興奮するとなっている。

遠州では普段使いで「猛る」・「猛ってやる」とかいう表現はせず、あくまで「どたける」・「どたけってやる」として使うので上記の理由は必ずしも正しいとはいえないのだがそれらしい講釈には聞こえるらあ。

そう考えると方言という訳ではなく古い日本語が残っているということになる。はたして真相や如何に。

*もうひとつの考え方は「あだける」に「ど」がついて「どあだける」が訛って「どたける」となったという考え方。

「あだける」は方言で暴れる騒ぐという意味では同一なのでこの変化によって生まれた言葉であるという理屈もおかしくはない。

ただし古語辞典では「あたける」(騒ぎ暴れる・あたりちらす)という言葉が記載されており「あたける」が「あだける」に訛っていったとも想像が可能である。そして「ど」が付く表現については「あたける」が生き残り「どあたける」→「どたける」と言いやすいよう短縮されたのでは。人によっては「だぁたける」(ど+あ=だぁ)と言う人も存在している。

こちらも根っこは古い日本語の名残りといえなくもなし。はたして真相は如何に。

例文

「あんの部長。今日中に要員配置するっていいくさった癖に入っちゃいんじゃんかあ。あったあきたで午後の会議でどたけってやる。」

  (あの部長め。今日中に要員配置するって言ってた癖に配置されてないじゃないか。頭来たから午後の会議で思いっ切り文句言いまくってやる。)

「みこ悪くなるでやめときない。」

  (覚えが悪くなるからやめといた方がいいよ。)

「しらすけえ。とんじゃかねえわ。やっきりこいたでなんしょ言わんと気が済まん。」

  (知ったことか。どうでもいいよ。ムカッときたからとにかく言わないと気がおさまらん。)

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歳いく

歳とってとか言う意味。

「歳いってから目覚めた」(年取ってから目覚めた)

とか言う風に使う。方言ではないのだろうが辞書とかでは出てこないので共通語ではないやもと言うことで記載。

遅咲き・今頃になってという意味合いで使われることが多く、別に年老いてからの限定と言うわけではない。

「歳いった」だと「老けた」という意味になる。

いづれも「いった・いって」の漢字は何がはまるのかは不明。

例文

「なんでえけったーなんぞ乗り回いてえ。」

  (おやあ自転車なんか乗り回してどうしたの?)

「おー。最近風切るの気持ちいいの知っただよ。」

  (うん、最近風切るのが気持ちいいってことを知ったんだ。)

「高校時分バス通じゃなかったっけか。全然乗っちゃいんかったらあ。」

  (高校の時はバス通学じゃなかったっけ?全然乗ってなかっただろ?)

「だもんで新鮮でやあ。」

  (だから新鮮でね。)

「歳いってから目覚めただけえ?」

  (今更ながら目覚めたってこと?)

「そうでえの。」

  (そうだね。)

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