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私は猫ストーカー

 観終わっての率直な感想は、こういのを観てしまうとテレビドラマの軽妙さが愉しめなくなってしまうなと。こりゃ監督に責任とってもらって定期的に作品を供給して貰わないと。豪華な温泉に浸って別世界へ誘われるとかじゃく普通の風呂だけどなんかの素を入れたみたいなちょっとした手の込んだいつもと違う感じでくつろげるという奴ですかねえ。

パンフレットの監督プロフィールの中の一節で

「彼ほど待ち望まれた監督はいない。」

とありましたが分かる気がします。

猫を邪険に追い払ったり餌やりに異議を唱える一派の存在とかを具体的に提示してない片側通行の現実ファンタジーと映るやもしれませんが、敵も悪意も存在しないこの世界感は私大好きです。もっともすれ違い(伝わらない意思も理解されない行動も)が心に刺さる凶器にはなり得てせつないのえということは謳われてますけど。それが人情の妙というものか。

 前置きになりますが普通DVDで観直しした上で感想を書くんですけど(そうでないと漠然と観ているので細かいところが実際と異なりとんちんかん過ぎるので)この映画のDVDが果たして手に入るのか分からないので一回しか観ていないという曖昧な記憶の下で感想を残しときます。

この作品が監督の長編映画デビュー作となっているのですが、鈴木卓爾作品を観たのはこれが初めてという訳ではなく「パルコフィクション」や「ワンピース」をDVDで観てるんです私。原作がドラマ化された「ホミ・ロック」とかも。そういったものから監督の傾向を想像した上で観たのですが、今回は原作・脚本が別の方で尚且つ長編であり土俵がそれとは違うのですが。だからといって別人28号になった訳でもなく鈴木監督らしい息吹を感じる映画でありまして。とまあまずは軽いしったかぶり。とにかく観れて良かった。

 情緒的なのか叙情的なのか象徴的というのか符合的というのか色々合わさってて映画通でなければおそらくよく分かんないだろうってとこが「鈴木卓爾」監督作品らしい気がするだけどどうよってか。直感で物申さば画が凝ってるぞ&ハルが活き活きしてるぞとくらあ。それをばもうちっと細かく書きますがよく分かってないだけにこう思えたぞということの印象の羅列で話しを進めますんでそりゃ思い違いだぞとか話し繋がんねえぞという事もありましょうがそこんとこ何卒よしなに。

 まずもって目に焼きついたのは画。ストーカーしてる際の景色。魂がこもってるとかいうんじゃなくて対象に対しての慈しみというか想いが画に籠もっていたように観えました。それとは違って人を描く際には例えば元彼とハルの電話のシーンみたいに知恵を巡らし創意工夫に凝ったりと全部のシーン息継ぎなしで全力投球してるかのようでありました。それが監督の意欲なのかキャメラマンさんの熱意なのか原作がそうなっているから忠実たらんとしたなのかは知りませんが、かようによりよい画をと気合い満点で画を紡いでいたら長編をば作るに頭爆ぜたりしないのかと余計なお世話になるくらいでした。別に緊張感を与えるような注視せよみたいな画ではなくどこに目線をやってもまったりした息遣いと時間の流れを感じるんで観てる方は全部こんなで勿論大歓迎なんですけどね。

購入いたせし金700円也(ちと高!)のパンフレットを読むと猫を描くには猫がいる環境をも愛でるが肝要なんだろうなと思えてきて、だからここまで拘るのかとふ~んです。それに猫は人と共存している訳ですので猫を追えば必然的にそこに住んでる人達の景色を追うわけですから遠まわしに「人の景色(生活)」を映してもいるということなんでしょかねえ。一度で二度美味しいってか。

おかしな観方でしょうが猫をストーカーして追ってるシーンの方が緊張感を感じて人同士の擦れ合いのシーンになるとほっとしてたんですわ。普通逆なんですけどね。これって猫の世界が未知の世界ですから自分が居住してる人の世界に戻るとほっとしてしまうのかな。だとしたら猫ワールド探検を見事に画にしてるということになる訳で。だとしたら凄いもの観てるのかな。ってそりゃ大袈裟か。取り直しもやらせも困難な画だという撮る側の緊張感とかが映っているんでしょうかね。そりゃプロに対して失敬か。まあ多分映っているハルの目つきの真剣度合いからそう観えてくるんでしょうか。

斜めにかぶいた電柱を背景にふたりが会話するシーンなんかも印象的でありましたがこれってふたりのプチな異様性を暗示でもしてるんかなと勘繰ったりもして。

他にも「紅い」色がキーワードになっていたり何気に突如「意味が深いセリフ」とかがあったりして素人では計り知れないような緻密さがあるんでしょうけど猫は芝居してくれないでしょうから人智を超えた画作りというものと人智の限りを尽くす画作りの両方が存在している映画なんでしょうかね。無論偶然を待ってる訳じゃあなくて猫好きの人が有する道理に沿ったものに拠るアプローチなんでしょうけど。どこまでがドキュメンタリーでどこまでが演出意図に沿ったものかの境界線がわからないことは確かでした。

 エンディングは直接的な解決の提示とかいったものはされておらず。結論を急いたり答えたりしたりはせずに曖昧模糊のままにヒントだけ与えといて後は観る者任せという突き放し方のように受け取れるのですが、悦ですな。メリハリのついた起承転結ではっきりしてる明確な結論と爽快な余韻とかの作品を好む人つまり便所を我慢し続けて最後に大放出して嗚呼すっきりというのを快とするにはどうにも堪らない不完全燃焼でしょうけど、私はピークを高くみせるために谷を深く掘るようなつくりの景色より縦走でその都度軽い走破感を感じる方が好きですし、残尿感のように残る余韻だからこそ自分で想像できる(自分でオチを作れる)自由度がたまらなく心地よく感じます。映画鑑賞の達人レベルの方からすればもっと明確に描かれてるだろ見方が甘いんだよといわれそうですけど私にはヒントにしか思えませんでした。なのでチビトムは旅人となるのかハルと鈴木はどうなるんだとかその他諸々勝手に未来を想像しております。それは書きませんけど。

以前の作品は往々にしてなんのこっちゃいという観てる側がついていけない部分を有していたのですがこの作品にはそういったものは感じられませんでした。気づかず素通りしていったのかもしれませんがとにかく分かりやすかった印象があります。

 星野真理さん。勿論ご本人のことではなく役に対してのことですけど、大変失礼な話しですが私今まで演じてこられたどの役も奇麗とも可愛いとも思わなかったんですがこの映画のハルは可愛いと思いました。今まで観た役では、なんかどことなくそこはかとなく無理してる感を受けまして、その背伸び感がイタイのでありましたがハルにはそういうものがなくむしろ開放感みたいなものを感じました。(ホントは屈託感って書いた方が感情的に近いんですが意味分かんないだろうしと思って)

それにしてもしょっぱなの猫と同じ目線になるために四つん這いの姿勢でこっちにお尻向けた状態で猫に近づこうとしているシーンには正直ドキッとしました。欲情するとか言う卑猥なものじゃなく無防備だからこそ生まれ出るエロスというか間違いなく女性を観てるんだ俺はと。

 真由子(江口のりこさん)には多少オーバーな印象を受けました。といのもハルの住むアパートに写真を借りに行くシーンでの感情の爆発具合は大きかったなあと。あそこまで感情発露しなくてもという印象で。劇的な展開であらば得心のいくものですが日常のごくごく日常の中での異常な瞬間なのですからあそこまで起伏をつけなくてもという気がいたしました。慌てふためく動顚ということと尋常じゃないというのは違うような気がするのですがここでの真由子は尋常じゃない感じでした。なんでそこまで親身なのかなと思うくらいでした。

チビトムの失踪したことと主人(徳井さん)のとある出来事とがごちゃ混ぜになってあたける奥さん(坂井さん)を押さえ落ち着けさせようとする真由子との揉み合いのシーンがこの映画の中では異質と感じたんですがああいう感情のたぎり具合を表現する坂井さんと江口さんは見応えありました。

徳井優さんが良かったな。超普通の人で。煙草吸うかい?のシーンでのハルの問いに応えた返事が印象に強く残りました。別腹みたいになんでもかんでもひとつの線上に思いは連なっているもんじゃないってのはある意味矛盾やプライドとかで悩まずに済ます考えなのかもしれない。

 まとめとかはないですけどまずもっていい映画だったなあ。清々しくさも爽快感も達成感も控えめだけど何かを共有してる感じがしてきて居心地よかったです。

やはり大きい(普通の)サイズで観たかったな。

それと画面に3本縦線がうっすら映ってたけど、あれはフィルムによるものなのか映画館のスクリーンによるものなのか。観終わってから受け付けの人にでも聞こうかとも一瞬思ったんですがそれよりも煙草吸いたくてそそくさと外に出て聞けずじまいでした。最初結構気になってしまいました。後半ではもう惹き込まれていて気にもならなくなっていましたが。

 猫ストーカーをストーカーする男というのは面白いアイデアと思うのですが二人の今後の関係を特に期待するって感じに私はならなかったので涙ながらに「私猫ストーカーなんです」とカミングアウトする様は唐突過ぎる勢いがありました。

 そういえば家に帰って試しにうちに寄り付く猫に尻尾の付け根をトントンしたら「なにやってんだてめえ」という目でガンくれられました。

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