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念写カメラ タイプ1

Y氏はマンガに出てくるような全てを自分で作り出すことの出来る技術者でもある有能な科学者である。かといってお約束のマッドサイエンスを目指してる訳ではなく、ただ極度の対人めんどくさ性で社会的に世に出ることを嫌う人間であった。元々家が裕福で働きに出なくても生活に困ることの無いいわば引き篭もりともいえる生活をしている。家は別荘地の中でも人里離れたような場所でゴミにしか見えない発明研究に使うのであろう部品が積まれてる様な有様の中を掻き分けつつ暮らしている。外出するのは食料をまとめ買いするような時くらいといった徹底した引き篭もり振りである。小言を言うべき両親も既に他界して一人暮らしを満喫して自分の好きなことだけに熱中して生きている人間である。

そんなY氏は或る日、自分の思念を映像に投影できるカメラを長年の歳月を要しつつも開発に成功した。超能力なぞ有していなくとも写真だけでなく動画としても撮影できる優れものである。

なにゆえ彼がそのようなものを開発しようとしようと思い立ったのかというと。彼の生活においてテレビは欠かせないものであり殆ど唯一の娯楽であり社会で起きている出来事を知る手段となっている。そしてドラマが好きというありふれた人間の感性は人並みにある。

凡ての他人が苦手という訳ではなく人としての好き嫌いは人並みにある。そういう彼がこの機械を作り出そうとした直接的な要因となったのは物凄く感動したドラマがあった。Y氏はそれをより愉しみたくてこれがもし自分のお気に入りの役者さんが演じていたらもっと愉しめるのにという想いを持つに至ったのである。

ただ惜しむらくは芸術家的な才はY氏にはなく発想力が貧困でイメージだけでは映像を頭の中で構築するには役不足であった。そこで彼は録画しておいたドラマを観ながらその映像を頭の中を通して撮影することにした。そして出来てきて再生した映像はY氏の主観が混ざっていてテレビで映されていた映像とは似て異なるものであった。ただし色んな雑念が混ざっているせいでとても見辛いものではあった。

それでもこれならいけると、何度も実験・試験・訓練を重ねY氏は雑念除去も含めた自己鍛錬に勤めた。彼は一日中テレビの前で張り付き機械の改良に励むという生活すること数ヶ月。

そしてついに役者さんをY氏の好みの役者さんに凡て入れ替えて背景等は本作と寸分違わぬ作品を作り上げることに成功した。当初自分で満足して楽しんでいたがそのうち人はどう思うのだろうかと言う評価の程を知りたい欲望に駆られて来た。

今なら匿名性で発表できるネット社会というものがある。Y氏は自慢と期待のその作品を足のつかない手段を講じて有名な動画サイトへ投稿してみた。

反響は始めちょろちょろ中ぱっぱ。徐々になんだこれはということになってくる。そりゃそうだ全然違う役者さんが話題沸騰となったドラマを演じているのだから。オリジナルを越えたものとして誰しもが認めることとなった。

当然合成やCGであろうと思われたがそれにしては動きとかに違和感がない。作りモノにしてもここまで精巧なものは実際にドラマ制作したところが作ったのだろう。それが流出したのではないかとさえ言われるほどの出来であった。ネットでの評判から制作したテレビ局の関係者がその噂の映像を見て愕然とした。

「なんじゃあこりゃあ!」

抜かされた役者の事務所からはクレームが局に押し寄せ、出てもいないのに登場している役者を抱える事務所は本人とひと悶着したうえで局にどうなってるんだと問い合わせ。視聴者もなぜこれがお蔵入りになってそしてなぜ流出したのだという電話や書き込みが鳴り響く。雑誌はこのネタ書けば売れる。関係者のみならず視聴者をも飲み込んでのお祭り騒ぎとなりつつあった。

こんなの作った覚えの無い担当者は呟く。

「なんで?」。

そう、Y氏は面倒くさがりなので最後に出てくる出演者やスタッフのテロップまでは気が回らず(興味がなかったので)見えたままにしてあったので制作は某テレビ局のままになっていたのだ。

テレビ局は反響の多きさに会見を開き「我関与せず。」の声明を発表する。

じゃあ誰がと。著作権もへったくれもない社会のルールを逸脱したものとして糾弾すべきと言う意見。確かに面白いと思う意見。様々な意見が飛び交う。

プロバイダ等から追って行けば面が割れるだろうと思われたがY氏は有能な科学者。結局警察権力が介入しても掴むことは出来なかった。

そんな中でお騒がせの張本人Y氏はというと、賛否両論渦巻く中で原作のあるドラマでまだ映像化されていない物語をドラマ化して欲しいという少数意見に惹かれていた。以前イメージの貧困さから挫折した想像だけで映像化してみることに新たなチャレンジを見出したのだ。

以降彼は様々な映像を研究すべく益々以って引き篭もり具合が増すことになっていった。そして神経が切れてるんじゃないのかと思える程寝食を忘れる位没頭して行くのである。その結果ドンドンと緻密さを増していく。

そんな世間の喧騒から離れて新たな挑戦に挑んでるY氏であったが、新たな挑戦してはいてもドラマに関しては律儀に毎月1話づつ投稿していき世間は益々反響が凄く国民殆どがなんだこれはとなっていく。技術的にどうすればこういうものが作れるのかという特集番組や記事が連日踊る。これは超高度なCGであると言う説。変装・モノマネといったアナログ芸と合成の合作によるものだと言う説。などなど諸説紛々ながらも決定打がないまま日にちが過ぎる。

Y氏が作ったドラマのオリジナルは全12回。こういうことには理詰めに完璧を期すY氏12話きちんと投稿。著作に関して無断使用だからと削除要請もあるにはあったのだが一般人には歓迎で迎えられており大勢の意見が見せろと言うものだったし、著作権団体とかの要請を受け入れて一度削除したところ物凄い非難を浴びたのとコピーされたものが出回るなどして益々収拾がつかなくなってしまったこともあり黙認の状態となった。

欲しがる連中

テレビ局や映画のプロデューサーはこれでギャラも払わずに済み経費が安く作れるからと将来性を感じ懸賞金つけてでも探そうと躍起になる。

監督はイメージ通りのアングルからとかの映像が作れ理想のキャスティングが役者さんの生死に関わらず出来ると期待を寄せる。

作家は他人を介さず自分で映像をつくれる。もう勝手にイメージを壊されずに済むと熱望。

エロヲタクは悶々画像を妄想できると嬉々。いくらなら買うか買えるかという話しで勝手に盛り上がる。

電機メーカーは商売になるならと研究を開始。

学者は理屈を知りたいから学会で名乗り出てくれと訴える。

などなど誰も彼もが反応する中でこんなものが世に普及したら困る者が眉をしかめる。

著作権を扱うところ。みつけたらただじゃすまないぞと憤慨。

役者はこんなのが出回ったら商売上がったりと危機感を募らす。しかも自分の能力を超えた演技すらもY氏の作品の中で演じられているので現実の創作中に出来るだろうと監督からの無理な注文に辟易しなくてはならなかった。

作家などこれが普及すれば自分で作れるかもと思い映画やドラマへの映像化のOKを出さなくなった。

相反する反響の中でY氏は我関せず。ただ己の好奇心の赴くままこの世界にのめりこんでいた。当然これで一山当てようと言う気はなく人前に出ずに人から評価される快感を得られるこの世界でよしとしていた。

しかし、使い道はY氏が考えているようなものだけではないのである。例えば防犯カメラとかに映っている映像を作っておけばアリバイが成立する。また逆に犯人に仕立て上げることが出来る。対立する人間を追い落とすために言ってはいけないこととかをあたかも言っている様な映像を作ることが出来る。そういくらでも悪事にも色々と使えてしまうのである。

そういう可能性の警告をテレビで発した者がいて映像の証拠性が揺らぐと言う事態に実際発展しかねない煽りすらあった。

そしてついにそれを利用しない手は無いと思い立った悪党が現れた。その悪党の財力と権力は何故か絶大で不老不死以外にこれ以上何を求めるのかと思える感じだが、とにかくあらゆる手段で作り手が誰であるかを調査し始めた。

その調査は困難を極めたが悪党なりの威信にかけて調べ捲くった。そしてどういう手立てを講じたのかは不明だがY氏を突き止めたのだった。

悪党とは言え、金銭でけりがつけばこれほど楽なこともなくまずは交渉に出向いた。居留守を随分と使われたが何度目かの訪問でなんとか接触することが出来た。

「如何でしょう。貴方のその研究私どもにお譲りいただけないものでしょうか。」

「なんのことだかさっぱり分からない。」

「おとぼけにならないで下さい。貴方が世間を騒がせている映像の発信者だというのを知っているのですよ。著作権を保護する者達に貴方のことを教えてもいいんですよ。そうなれば貴方の生活は滅茶苦茶になる。ならばそうならないために私どもにお譲り願いたい。」

「なんのことだかさっぱり分からない。」

まったく話しにならない。いくら摂理(脅し)を説いても多少の威嚇(暴力)をしても神経が通っていないような目が死んでるかの様の無感情で「さっぱり分からない。」を繰り返すのみなのだ。あれでは誘拐しても無理だろうと判断された。家の中を探ろうと入れろと脅かして無理矢理に入ってみてもがらくた尽くしでさっぱり分からない。その雑然さに辟易し半分死んでるような姿をみると魂を吸い取る掃除機でもあるのかとさえ思えるくらいであった。

監視してどのように映像を作り出しているのか探ろうともしたが窓はいつも締め切りで外からは見えず盗聴カメラを仕掛けても何らかの強い電磁波のようなものが発生しているらしくカメラが機能しない。

譲って貰えないのなら盗んでしまえ。大金を要してもなんとしてでも欲しいと考える組織はその道のプロに依頼したのだ。

深夜寝込みを襲う賊の集団。その手並みは盗人界のゴルゴ軍団と称されるだけのことはありそれはそれは見事なものであった。ただし火付け盗賊改めが現存していたなら容赦しないであろう押し込みの種類でも性質の悪いいそぎ働き。一応「ありかを吐け。」と言ったがY氏は拒否。あえなくY氏の運命はついえた。そしてらしきものは全て持ち去りかつ証拠を残さぬために火を点けての退散であったのだ。それについては依頼人からの独占したいがための要望でもあったのだが。

盗賊団にとっても念写カメラがどういうものかは分からない。なので機械と言う機械は凡て持ち去るという大掛かりかつ徹底振りであった。

だがそれらは盗んでも全部意味のない物ばかりであった。何故なら見事盗み出してきたガラクタや資料以外でその機械と思われるものは録画機と増幅機能をもつブースターのようなもので肝心の読み取り機能とかの部分がなかったのである。設計図などもなかった。

依頼者は問う。「何故だ。凡てと言ったろう。」

「部屋にあったものはこれで凡てだ。家具に至るまで粉砕して隠してないか調べた。そういう粉々になったベッドや机、風呂桶果ては着ぐるみ脱がせた衣服まで持って来いっていうのか。」

「見つからないならせめて連れて来れなかったのか。」

「そういう話しじゃなかっただろう。」

「ならば何故吐かせてから殺さなかった。」

一瞬躊躇する盗賊であったが

「生憎と拷問は専門じゃないんでね。」

「まあ仕方ない。」

その後一応研究室に運ばれて研究者が調べるがやはり肝心な部分が存在しないので仕組みが解明できなかった。

その後、焼け落ちたY氏の屋敷跡からは黒焦げになった遺体が地元の消防団と警察によって発見された。それは遺体というよりも異体とも呼べるものであった。頭部部分には入力ジャックがあるという機械と人骨が合体したような異様さであった。頭部だけでなく内臓近辺にも焼け焦げて使用意図不明な小さな機械が散乱していた。そう念写カメラの為にY氏は自らの肉体をも改造していたのである。本体とも呼べる受像部品は脳に直接取り付け寝食する時間を省くため体の至る所をも機械化していった。つまりサイボーグ化(自らをカメラ化)していたのだった。普通サイボーグというと強化と言う意味合いが強いのだがY氏の思想は補強プラス簡略化であった。頭部は補強し体は人としての最低限のことは確保しつつも生活の手間を省くため食事睡眠を省くため電気とサプリの摂取だけで体が動くようにしていたのだった。実は火付け盗賊に襲われた際振り向いて立ち上がった際足がつまづいてあっけないほど簡単に首の骨が折れ勝手に絶命したのだった。日頃の運動不足の賜物と頭部に内蔵した部品の重量により頭でっかち尻すぼみ、バランスが悪かったのである。その都度無計画に突き進んできたので設計図なぞはもとより存在していなかった。

用意周到な悪党及び盗賊たちが何故Y氏が異様であることに気づかなかったのか。闇夜という事もあろうか精巧な人工皮膚を装着しており見た目が改造されてるとは思えなかったこと。若干青味は感じたが殆ど出歩かないので不健康な青白いせいだろうと思われた。一目瞭然異様な頭部についてはなぜ視認出来なかったのか。そうY氏は若かりし頃より自分で開発した鬘を終生愛用していたからでありその精密さは転倒してもずれることの無いものであった。そしてあまりの最後のあっけなさにさすがに不憫に思う仏心が盗賊にも湧いたのであろうか。それでもプロとして身ぐるみ剥いで衣服のチェックは行なったのだが体の中まではさすがに掻っ捌いてチェックしなかったのである。

もし世に出ていれば精巧なカツラ・人工内臓の開発など優れたものであったかもしれない。

この火災については消防や警察は壁などが破壊された後燃えていることなどから事件の可能性もと考えられたがそれを裏付けるものもなく失火原因は漏電であろうとしてひっそりと事故として処理されることとなる。

凡ての情報収集を終え経過報告を受けた依頼者はその旨を首謀者に伝えた。

「大統領残念ながら闇に葬られました。」

「そうか。私の100年天下の夢は夢でしか無いか。」

心の中で「実績で生き残れよ。」と思う首席秘書官であった。

Y氏が世に発表したのはキャストの入れ替え全12話のひとつのドラマ。それと原作のあるドラマでドラマ化されていなかった物語を0から作り上げたものが2本。CG特撮がせこかった映画を改造したものが1本。自らをカメラにしてしまうなんて発想に普通の人が至る筈もなく結局新たな開発者が現れることはなかった。

本人は様々な映像の寄せ集めの成果で創造性(芸術性)は皆無という意識であったが最後の方は邪念除去装置を取り付けた成果か作品を仕上げることのみに神経がいってたようであった。

人は突如として表れ忽然と消えたその芸術家を現代の写楽と読んだとさ。まあ写して楽しんだのだから大きく的が外れてはいないが。

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