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念写カメラ タイプ2

Y氏は日曜大工ならぬ日曜科学者である。大学は出たけれど望みの職種につけず家族を持ったことで趣味と生活は分けて暮らす道を選んだのである。親が残してくれた比較的広い敷地と家に住み、家族に迷惑掛からぬよう庭の端に作業小屋をおっ建て休みの日はそこに籠もりきりという休日を過ごしていた。家族は妻は特に出費が酷くなければと黙認している。子供たちは反抗期なので興味すらない。発明して特許で目指せ金持ちと最初妻は願ったがどうも方向性が違うらしい。世界征服を狙ってる風でもないのでまあいいかと思ってる。

そんな毎日を送っていた或る日。無視されているとはいえ一応家族揃ってテレビを見ていた。

「このドラマ筋は面白いんだけど、役者さんがタイプじゃないのよねえ。」

「そんなんいいじゃん別にこれで。」

「そうかなあ○○って役者の方がずっといいって。」

「うんそう思うお母さんも。」

そんな他愛の無い会話にすら参加が許されないY氏だった。

「じゃあさあお兄ちゃんパソコン得意でしょ。合成とかで顔だけでもすり返えちゃえない?」

「無理だよそんなの。」

! と閃くY氏。

そして日曜日。Y氏は自分のイメージが映像になる「念写カメラ」を作ろうと図面を書き始めた。なんとか脳波を感知して想像した映像をカメラに記憶させる手立てはないかと指向し思考し試行し志向し嗜好し施工したりなんかした。その夢中な様子はまるで棟方志功のようでもあった。そうはいってもご飯ですよと呼ばれれば続きは次の休みにというペースではあったが。

どれくらいの月日が経ったのだろうか。気がつけば子供たちもそれぞれ独立し仕事の方も早目ではあったが無事定年退職して時間が取れるようになっていた。妻は一日中家にいられるよりも研究部屋に籠もってくれてる方が楽なので心着なくY氏は研究に没頭できるようになった。

そしてついにその「念写カメラ」なるものが形となった。といっても持ち運べるようなものではなく小屋全体がカメラと呼んでも差し支えないほどのサイズであるが。

とりあえずの実験とかは行なってきたのだが、いよいよドラマ一本を丸々念写カメラで撮影することにした。引用するドラマは先月大好評のうちに幕を閉じたドラマ。と、妻が言っていた物を使うことにした。

基本はY氏が頭の中でイメージした脳波からの情報を読み取って映像化するシステムなのだが。それを補助する形で再生した画面と変更したい役者さんの情報、その双方のデータを解析分析して役者さんだけを希望した役者さんと入れ替えより繋がりがスムーズになるような作業が行なわれる。背景や色なども任意で変更は計算上出来るのだが今ある機械の容量では追いつかないので人物のみの変更に設定していた。したがってあらかじめ入れ替えたい役者さんのデータとかも装置に記憶させておかないといけないとかの事前の準備とかもあったりして一時間の番組でも変更作業を終えるのに一週間程要した。

それでも早く終えたもんだとY氏は思った。初めてなのにとてもスムーズであったのだ。予想では1ヶ月がかかるんじゃないかと想定していた。

出来上がった物を確認するY氏。満足のいくものであった。早速妻に見て貰おうと家に戻るY氏。

「ちょっとこのドラマ見てくれないかな。」

「へえ~、いいわよ。」

そういってY氏会心の作品を鑑賞する妻。始まって5分位して

「あら懐かしいわねえこのドラマ。出てくる役者さん懐かしい人ばかりじゃない。」

そう。Y氏はここ数年研究に没頭するようになって最近の役者さんを知らず必然的に昔よく観た役者さんのデータしか持っていなかったのである。

「ホント懐かしい。物語とかそういえばこうだったわよねえ。」

なんのことはない。使いまわしというか昔のドラマのパクリだったのである先月大ヒットしたこのドラマは。もちろんアングルとかカット割り・台詞までそっくりパクリと言う訳ではないが昔のドラマをそんな細かい違いのとこまで憶えちゃいない。記憶の方がごちゃ混ぜになってると思っているのであろう。なのでY氏の快挙にはまったく気づいていない妻であった。唯一感心してくれたのは

「昔のドラマなのに随分と綺麗ねえ。画像処理とかしてクリーニングしたの?凄いじゃない。」

と言うお褒めの言葉であった。

すごすごと小屋に戻るY氏。反省点を整理する。

娯楽たるドラマは輪廻転生。周期的にローテーションしてるもので見る側も作る側もそれでよしとしているらしい。予想外にも早く出来たのはそういうことだったんだと気づく。違いがあるのは役者さんだけだったのを元に戻しただけだった。なんのことはない自分が以前観た作品を思い出して復元しただけだったのだ。どうりでキャスティングも躊躇なく決まった筈だと。

つまりの結論「駄目だこりゃ。」

ネットで公開して世に問うという事も考えたのだが著作権とかの権利の発生がどんなものかは会社勤めを長いことやっていたから分かっているのでそれは止めた。素直に特許申請してとも考えたがまだ改良すべきとこだらけだからとそれも止めにした。まだまだ実験の段階だと。

最近活躍の人は知らない、ストーリーはマンネリだから違いが分からない。だとしたら背景だ。昔の馴染んだ作品でも良いから特撮とかがおもちゃみたいに思えたものをリアルな映像に変えてみよう。そういう考えに至るY氏であるが、これは稀な偶然で全てのドラマがそうじゃないという事をドラマにあまり興味の無いY氏は気づいていない。

Y氏は取り込んでいたデータ等全てクリアして関連する項目のデータに入れ替える作業をすることにした。そして怪獣やら戦闘機やらのデータを取り込んだりして再び意欲を取り戻していった。

そして使った映画はY氏が幼い頃に観た「怪獣ゴスラ」。○ジラと○スラの間に出来たという摩訶不思議な怪獣。羽はあるが体重が重くて飛べない、口からモノは吹くが糸と火炎が共に出るので糸に引火して自分の喉を火傷してしまう。足は逞しいが手は蛾のように細くて力がない。唯一尻尾だけが凶器として使え体はひたすら固いというすちゃらか怪獣が偶然の連続で最強極悪の宇宙怪獣を運よく退治するという展開の映画である。

誰が見てものパクリ便乗満載の映画で特撮とかもちんけで評価は最低であったがなぜかこの映画が好きだったY氏。これを凄いリアルな映像にして再現しようと。まあ本音は自分が所有してるのが小さい頃に買ったこれしかなかったという理由でもあるのだがこれならそう著作権にうるさくないだろうという考えもあったようだ。

そして苦節数ヶ月。Y氏会心のリアルなものを作り上げることに成功した。イメージというか想像力がそう豊かでは無いので物語の強引な展開とかもつっこみはいれれるが代案が湧かないのでそのまんまで建物が壊れる様とか質感重量感はあたかも生きてるかのような本物感に達したと満足できる出来であった。

さすがに妻はこういうのは見ないので、息子が孫を連れてきた時にでも見せてみようということにした。そしてその日が来てワクワクしながら孫に見せた。

すると孫は

「これこないだ見たよつまんない。他の無いの?」

え?と思うY氏。すると息子が

「この間『懐かしの作品を最先端技術で再現シリーズ』っての借りてきてその中にあったんだ。人気無いんだけど親父が唯一持ってたビデオだったから懐かしくてね。でも食いつき悪いんだ面白くないみたい。」

唖然とするY氏。翌日それを借りてきて観てみる。細かくはもちろん違うが最近の映像処理技術は素晴らしくかつプロの仕事が足りない部分を補っていて素晴らしい出来映えでいたく感動したY氏であった。だが面白くない人にとっては集中して観ていない分違いなぞ分からない(どうでもいい)ようである。きちんとした名作を題材にすれば良かったのにそれをしなかったY氏の選択ミスであることをY氏は自覚していなかった。

こうなるともうまったくのオリジナルを作るしかない。比べるものがあるから違いが判り易いと思っていたがそうじゃないんだと思うY氏。そうはいっても創作力がある訳でもなし。そうなると著作権にうるさくなさそうな小説を映像化するが肝要という結論に達する。

今度は背景から何まで全て作り(思い)込まなければならない。カメラのデータ記憶容量も足らない。それでもここまできたら意地でも引き下がれないY氏。地道にこつこつと作り上げていった。カメラそのものも改善すべき箇所は改善していきこれが出来たら見本作品として提示して特許申請でもしようかと思っていた。売りはそうだな映像のシンセサイザーってとこかな。どんな映像でも室内で想うだけで撮影できる!なんて勝手に想像してにやけるY氏。

そしてあと少しで完成するという時、家でちょっとした不注意で階段から転げ落ちてしまった。

目が覚めた時には病院のベッドの中だった。妻が言う。

「閉じこもってばかりで運動とかしないからだよ。」

確かに言われた通りだった。幸い命に別状はなく足の骨折だけで脳波等の異常もなかった。暫しの入院の後無事退院の運びとなる。さあ帰ったら最後部分を作って仕上げるぞと意気込むY氏。決して意欲は衰えてはいない。

タクシーを降りて、家に入らず作業小屋に向かおうとして目を疑うY氏。小屋の場所が違っていた。

「勝手にやってごめんね。でも入院費やらで厳しくて。だから少し土地を売ったの。」

おぼつかない歩みながらも急いで中に入り唖然とするY氏。決して小屋にあったものは何一つ捨てられてはいないようだが小屋を移動させる際に一旦全てばらしてから運んだらしくデータやらなんやら全てぶっ飛んでいた。しかも追い討ちを掛けるように図面とか紙類が水に浸かったかのように滲んでいて読めない状態になっている

「お隣さんが火事になってね。飛び火を防ぐために小屋辺りに放水したいって言われてね。あなたの大事な機械駄目にしちゃいけないと思って機械を出してからにしてって消防の人にお願いしたの。紙類までは避けてる時間がなかったの。」

ふ~んと聞き入るY氏。そして妻にこう言った。

「おなかすいたな。晩御飯早めにね。」

その後Y氏は敬老会(若い部類であるが)とか積極的に参加するようになって体を盛んに動かすようになった。もうこりごりと思ってるかに見えたが、Y氏が思っているのは「0からの再スタートだ。経験値が増えてるとはいえ長丁場になる。ここはまずそれを乗り越える体力が必要だ。」

さすが趣味には終わりもゴールもない。いきがいとどう違うのかはY氏にも分からない。

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