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の・ようなもの

1981年公開作品 監督・脚本森田芳光さん

私はこの時期、鈴木清順監督の「ツィゴイネルワイゼン」と大森一樹監督の「ヒポクラテスたち」を観た余韻を強く長く引きずっていて、正直あまり映画館でこの作品を観たのかすら自信が無いくらい記憶が曖昧になってました。でも大分経って、深夜のテレビで見た時にはストーリーを憶えていたので多分観た筈です。

で、「間宮兄弟」との抱き合わせ(?)でDVDが発売されたので改めて見直すことが出来ました。落語家の世界、それも二ツ目という駆け出しもいいところの主人公の恋愛模様と落語社会で生きていく様を温かみのある視線で面白おかしくそれでいて真面目に描かれている作品です。落語家さんの真面目ってのは普通じゃないですけど。DVDでは「間宮兄弟の原点がここにある!」と謳われてますが似て有らざるような後味が私にはします。

独特な落語社会という点、しかもペーペーである事。普段絶対普通に生きてる人間には見られない世界からの切り出しですので、多少ファンタジーがかかっていてもああそうなんだと納得出来てしまう事を考えると、企画の勝利のような気がします。森田作品の特徴でしょうか。

映画は美男美女、若しくは芸達者が出る物だと思っていた私には、あまりにも普通な主人公にビックリしました。徹底したコメディーというかお笑いの作品でもないのに、この作品の主人公は美男とは遠い(しかも新人さん)というのには驚きがあります。秋吉久美子さんが出てらっしゃる分、予算との兼ね合いで相殺でバランスをとってるってことなんでしょうかねえ。という冗談が洒落にならないほど志ん魚(しんとと)役の伊藤克信さんがはまってるように思えます。なんでこんな奴がって思えてきますからね。そんなモテそうには見えない容姿と、噺家を目指す人とは思えないほどの朴訥さがファンタジーです。

お話しは、主人公が誕生日のお祝いに仲間からの資金カンパでソープへ行って、そこでエリザベス(秋吉久美子さん)と出会い何故か惹かれあう。高校に落語のコーチに行けばそこで出遭った落研の女性部員の一人と仲良くなる。プロにも素人にも好かれるという男の憧れファンタジーを実現してけつかるとんでもない奴ですが、本業の落語のほうはイマイチどうもいけませんわという状態。そういう幸と不安が交差した不安定な主人公を笑うのではなしに可笑しく落語社会の日常を通して描いていく物語です。監督はエンディングをどうまとめたのかは観る視点によって大分異なると思えるのでまあ観て下さいということで。

今見て思うことは、若いなあと。物凄く漠然とした未来が見えない不安。そういうものって歳食ってみると若い内にしかないものだと分かるんですが、そういうものがあるから可能性の挑戦が出来るんだろうなあと、具体的な不安しか出てこない今ふとそう思えます。ただ単純に芸能を愉しんでる私から見れば志ん魚がよほど化けない限り落語家として大成するとは思えない風に見え、長い目でみたら幸せに手が届くようには見えない。なのに、何故か毎日の日常が充実して生きているように見せているのは、「これでいいのだ」と監督は謳っておられるのでしょうか。

日本屈指の監督さんとはいえ、この作品はなんといってもデビュー作ですからそんな奥行きを計算して作られたのではないのでしょうが、この空気感というか間というかそういうものが観る側に下衆の勘繰りをさせるのでしょうねおそらく。

もしストーリーが、真打にまで登りつめた主人公が若かりし頃を振り返って、こういう人達に育てられて今の自分に至っているというお話しだったら、すんごく分かりやすくもっとハチャメチャなエピソードでも大丈夫になると思うんですが。そうしなかったのは「おもしろくやがてかなしきあわれかな」という美なんでしょうか。エンタテイメントでなくリアルな描写を是とするかどうかは、たとえ親が死んでも高座を勤める芸人根性を垣間見てしまっても客として純粋に芸に対して馬鹿みたいに笑えるかどうかで好きか嫌いかの分かれ道になるでしょう。ハッピイエンドが好物の私としては舞台の内側を見てしまうことによって興ざめするようなら目をつぶってしまいたい方なので、複雑な感情を抱いたエンディングの道のりでありました。

でもやっぱ好きですわこの作品。悪党の出てこない世界はやはり人情味を感じる事ができるし、みんな一所懸命だし。登場人物たちの向いてる方向性も一緒だし。

時代を感じさせるのは、バイクはノーヘル。道交法ではもうヘルメットは義務でしたがあの頃の映画は大体の作品でそれに楯突いてたなあ。あと衣装協力がVANになってて懐かしいというか憧れてたなあと思い返したりで。

それとDVD特典で監督のサインカードが封入されてた。印刷かなと思ってたらサインペンで本当に書いたカードが入っていて、作品に対する想いが感じられてなんかうれしい。夢を壊すような高度な印刷やスタッフの代書でないことを無邪気に信じたい。

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